2001年3月8日、南アフリカのケープタウンで「戦争反対平和を求める女性世界法廷」が開かれた。南アフリカ各地や世界から4000人以上の女性たちが参加し、40人の女性の証言に耳を傾けた。
それぞれの苦難と闘いを語る女性たちは、様々な文化とそれぞれの経験を持っていたが、20世紀に犯されたジェノサイド暴力の証言という点では共通していた。
3月6日には南アフリカ議会を借りて開会式を行い、「アパルトヘイト時代に称えられることのなかった女性」をテーマとして、アイヴィ・グチカ、リディア・コンペ、ミルドレッド・レシラ、ベルナデティ・ネンベ、ナナ・ムナンディ、リタ・ンザンガが証言した。誰もがアパルトヘイト時代に沈黙を余儀なくされた女性の経験を語った。
3月6日と7日に行なわれたラウンドテーブルでは、この時代の危機をめぐって議論が行なわれ、客観的な現実と女性の主体的な証言をいかに組み合わせるかが主題となった。個人的なことと政治的なものとの組み合わせである。
第1のテーマは戦争や紛争の根源を理解することである。ここでは貧困のグローバリゼーション(生存に対する戦争)、国民国家とナショナリズム(国境や境界の戦争)、軍国主義(人間の安全保障に対する戦争)、人種主義(排斥という戦争)、先住民族の世界(忘れられた智恵に対する戦争)、人身売買(女性に対する戦争)、難民(他者に対する戦争)が問われた。
第2のテーマは代替策としての正義、平和の新しいヴィジョンである。ここでは真実和解委員会、国際戦犯法廷、国際和平過程、記憶の修復、地域における癒しと平和構築、南アフリカにおける貧困が問われた。さらに、女性とイスラム教、ホロコースト、日本軍性奴隷制も取り上げた。
3月8日の法廷では、証言が行なわれた。
陪審員となったのは、ザネル・ムベキ(大統領夫人、社会活動家)、ファティマ・メーア(アパルトヘイト被害者、抵抗者)、ミリラニ・トラスク(ハワイ国家委員長、先住民平和イニシアティヴ)、マージド・ラーネマ(イランの学者、元国連代表)、ヴジョサ・ドブルナ(コソヴォ、人権活動家)、デニス・ハリディ(元国連イラク人道調整官)、アイチャ・エル・チャーナ(モロッコ、人権活動家)である。ビルマのアウンサン・スーチーも陪審員であるが、出席できなかった。
証言は5つのセッションに分けて行なわれた。
1)「ジェノサイドとしての戦争」では、フィリピン、ボスニア、パレスチナ、ヴェトナム、イラクから報告がなされた。
2)「国境なき戦争」では、人身売買と性暴力、中央アフリカの内戦、キューバに対する経済制裁、シエラレオネの内戦、ヨルダンのパレスチナ難民について語られた。
3)「文明に対する戦争」では、植民地主義とアパルトヘイトによる女性の被害、インドのダリット差別、オーストラリアのアボリジニ、メキシコのチアパスの状況が取り上げられた。
4)「女性に対する戦争」では、野蛮な家父長制についての研究報告の後、エジプト、ガーナ、アフガニスタンなどの証言が続いた。
5)「結集する精神(抵抗の声)」では、陪審員が語った。ムベキは女性の考える平和を私たちは望むと語り、ドブルナは難民の暮らしの中でもみな決して希望を捨てていないことを報告した。トラスクは精神の脱植民地化を唱え、チャーナは武器輸出に対する規制を強調した。ラーネマはグローバリゼーションによる新しい植民地化への抵抗を訴え、ハリディは化学兵器の禁止を求めた。メーアは植民地化とグローバリゼーションがともに資本主義の所産であることを確認した。
(参考文献)The World Court of Women Against War, For Peace. A Brief Overview.2001.