2005年02月18日発行874号

【脅迫・強要でイラク暫定国民会議選挙強行 これは選挙などではない 占領継続のための儀式だ】

 1月30日、全土に戦車と武装兵が配置され、「要塞化された都市」「基地のような投票所」(米・ABCテレビ)という状況で、イラク暫定国民議会選挙が強行された。日本のマスコミは、その「成功」をたたえる報道一色だ。だが実態は、米英日などの占領支配を正当化するための儀式に過ぎない。

候補者も政策も不明

 イラクで強行された国民議会選挙について、「新政権へ正統性確保」(1/31読売夕刊)、「国民、銃撃戦こえ一票」(1/31朝日夕刊)などマスコミ各紙は賛辞を並べたが、そもそも選挙と呼べるような代物ではない。米英占領軍の暴力支配とかいらい政権による非常事態宣言の下、表現の自由も政治的自由も保障されていない占領下の「選挙」だ。

 そもそも、立候補者の氏名も投票日直前まで公表されず(高まる批判に、突如ウェブサイトに掲載されたというが誰が見られるというのか)、政策さえまともに伝えられていない。占領当局の下で創立された民間調査機関・イラク戦略センターでさえ、世論調査結果として「イラク国民の64%が延期を希望している」と伝えていたほどだ。

 この不公正、非民主性が、武装勢力に絶好の口実を与え、選挙準備の最中からテロが各地で頻発した。投票当日は、占領軍・イラク警察など30万人を動員した厳戒態勢で国境・空港が閉鎖され、夜間外出禁止令も発令された。にもかかわらず当日も、バグダッド、モスル、キルクークはじめ全土で投票所が攻撃された。前日の29日にはバグダッドのグリーンゾーン(占領軍管理区域)内の米大使館までロケット砲攻撃を受ける始末だ。

宗教令で投票強制

 投票にいたる過程も暴力支配、民主主義破壊の連続だった。占領軍は「武装勢力掃討」を口実に、反占領勢力の拠点といわれたファルージャに対し無差別攻撃で6千人以上を虐殺し、人口25万人〜30万人のうち、同市に戻れたのは現在も数万人に過ぎず、難民状態が続いている(3面参照)。当然、投票になど参加できる状況ではない。このファルージャのように、まともな有権者登録や投票所設置さえできなかったところは、イラク18州のうち4州に上る。

 登録有権者数さえ発表のたびにころころ変わり、150万人とも言われる在外イラク人の有権者登録も「予想」をはるかに下回り3割を切った。

 選挙妨害を狙った脅迫ビラが撒かれる一方で、シーア派シスタニ師による「選挙参加は宗教的な義務」というファトワ(宗教令)の発布をはじめさまざまな投票の強要も行われた。

 「多くの地域で人びとは、もし選挙に行かなかったら、スンニであれシーアであれ、毎月の配給食糧の量を減らすと脅かされている」(バグダード・バーニングbyリバーベンド http://www.geocities.jp/riverbendblog/)との声も伝えられている。

 選挙を「成功」としたい米英占領軍・暫定政権と、妨害のためには市民の犠牲もいとわないイスラム武装勢力が双方入り乱れて、全土は戦争状態だ。脅迫・買収など何でもあり。「宗派」を押し付け「民族的忠誠心」で有権者を縛りあげて、投票を強要してきた。「民主的」「自由選挙」どころか選挙の態をなしていない。

 しかも、選挙の公正を担保するはずの国際的な選挙監視団は組織されなかった。選挙に「責任」を持つはずだった国連要員はわずか25名がバグダッドのグリーンゾーンに閉じこもったままだ。このような選挙で選ばれる「議会」がイラク国民の代表であるわけがない。

民意黙殺し選挙強行

 この混乱の根本的原因は、イラク民衆の主権・民意をふみにじった占領下での選挙強行という異常事態にある。

 米政府はイラク戦争開戦の口実とした「イラクの大量破壊兵器」の捜索が、昨年12月にすでに打ち切られていたことを正式に公表した。戦争の大儀が一切なかったことは最終的に確定した。それでもブッシュは「戦争に踏み切りフセイン政権を倒したのは正しかった」、小泉は「見つかると思っていた。予想と見込みが外れることもある」と恥知らずにも開き直っている。

 イラクの資源と復興利権をグローバル資本に差し出したいブッシュ、ブレア、小泉ら戦争屋たちは、イラク占領を粉飾しようと選挙を強行した。破綻した占領支配を継続するための形式をとり繕う選挙であり、決してイラク国民の代表を選ぶためのものではない。

主権売り渡し人権侵害

 この選挙の結果がもたらす政権はどんな政権か。

 議席を分け合うのは、元CIA(米中央情報局)エージェントのアラウィ首相が率いる「イラク人のリスト」、イスラム教シーア派勢力の「統一イラク同盟」、クルド人勢力の「クルディスタン・リスト」、イラク共産党等の連合会派「人民連合」など。すべて「イスラム主義と自民族中心主義のかいらい政府」(イラク労働者共産党)を構成してきた者たちだ。占領国に主権を売り渡して自らの利権をむさぼり、女性の人権や労働者の権利を否定する連中が、「暫定政府」から、「暫定議会―移行政府」へと看板をかけかえるにすぎないのである。

 日本政府は、このような選挙に4000万ドルの資金を提供して在外投票に大使館員を立ち合わせ、「投票率は問題ではない」(町村外相)と「正当性」を擁護した。選挙直前に陸上自衛隊第5次派遣部隊(500人規模)を編成して「移行政権」下での占領継続にいっそう深くかかわろうとしている。

イラクの民主化を狙う市民レジスタンスの人々
写真:9人のメンバーが並ぶ

未来拓く市民レジスタンス

 イラク国民を代表する正当な政権は、占領状態を終結させ、イラク国民が脅迫や殺りくの恐怖から解放された後の真に自由で民主的な選挙を経ることでしか樹立されない。

 それは、イラク民衆自身による権利と自由獲得の闘いと不可分のものだ。占領停止を要求し選挙ボイコットを呼びかけているFWCUI(イラク労働者評議会労働組合連合)は、この強権と暴力の続く昨年11月から今年にかけて、皮革産業労働者やエネルギー・電力・建設・石油化学工業などの労働者のストライキ闘争を組織している。ここにイラクの未来と展望がある。

 平和的手段でイラク社会の民主化を闘いとろうとしているイラク市民レジスタンスに連帯し、全占領軍、その一翼を担う自衛隊を撤退させることこそが必要だ。

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