市民レジスタンスの運動に共感する中高生姉妹(バグダッド)
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イラクで国民議会選挙が強行された。マスコミは「イラクではじめての自由選挙」と賛辞の社説を掲げた。イラクは再建へのプロセスを歩み始めたのか。決してそうではない。政府メンバーが替わろうが、占領下のかいらい政権に変わりないからだ。イラク民衆の望むことは、すべての占領軍の撤退だ。政教分離、自由・平等の社会をめざす市民レジスタンスへの期待はますます高まっている。
(豊田 護)
「選挙成功」は本当か
『この民意を自立の礎に』イラクで選挙が行われた翌日、1月31日付の朝日新聞社説だ。「アラブ世界ではほとんど前例のない自由な選挙」「(激しい妨害活動にもかかわらず)イラクの人々が見せた自立への意欲を高く評価したい」と選挙の正当性を認めた。さすがに理想的な選挙とはいわないが、他のマスコミもおしなべて「選挙成功」を振りまいていた。
本当に「成功」なのか。選挙とは有権者が誰かを選ぶことだ。選ぶためには比較検討できる情報が不可欠だ。だが、候補者の名前や政策・公約はほとんどの民衆にとって、わからないままだった。選ぶことなど不可能だ。目隠し状態でくじを引くに等しい。
まして武装勢力は、投票行為は占領への協力だと報復を公言している。逆にかいらい政権は食料配給拒否をちらつかせ、投票を強要する。多数派のシーア派はファトワ(宗教令)を発し、投票義務まで課す。こんな状態がどうして「自由選挙」なのか。民意など表わしようがないではないか。
考えて見ればわかる。イラクの民衆が誰に投票しようが、次期大統領や首相は占領軍・米国が決めるのだ。統治評議会のチャラビも暫定政府首相アラウィもすべて米国が選んできた。
子どもたちにも安心と安全を保障する地域づくりへ
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そして、こんどの移行政府の大統領も首相も、すでに米国が選定していることだろう。投票さえ行えば、用意された結果を「民意」として示せるのである。「投票率6割」すら、「正統性」を持たせる合格ラインとして事前に決めてあった数字なのだ。
今回の選挙は、占領体制を正当化するために仕組まれたものだ。これを「自立への一歩」と評価するマスコミは、占領体制を支える役割を果たしている。
憲法草案が焦点に
今後政治的焦点は、8月15日までにつくられる憲法草案となるだろう。宗教色を強めるのかどうか。クルド人自治区を分離する連邦制か、否か。占領体制下の利権分配を巡り混乱は続くだろう。
2003年から2004年にかけて、女性の権利を著しく後退させるシャリア(イスラム慣習法)を持ち込もうとする動きがあった。3月の基本法(暫定憲法)制定をにらみ、宗教勢力を占領体制に取込むための方便だった。
イラク民衆は拒否した。女性団体だけでなく、他の民主団体や労働組合が反対の行動を行った。デモや座り込みを組織し、撤回させた経験を持つ。大衆的行動が、占領方針にストップをかけた。この闘いの経験が「反占領、自由・平等」を掲げた市民レジスタンス戦線結成につながった。
政教分離、あらゆるテロの排除を求め、政党・民主団体など約30団体が集った結成大会から半年がたった。
イラク人の誰しも民主的政体を望ましいと考えている。市民レジスタンス戦線がイラク民衆の期待に応える勢力であることは間違いない。
戦争政策に終止符を
各地で取材報告会を重ねる中で、記者自身気づかされたことがある。ある会場で、報告会終了後、感想を伝えに来てくれた女性がいた。
「イラク戦争について、いろんな人の話を聞いた。でも犠牲となる民衆の姿に絶望するばかりだった。今日はじめて希望が湧いた」
市民レジスタンスは、イラク民衆だけの希望なのではない。世界で反占領を闘う平和勢力にとっても希望となっていることを教えられた。
民族対立が煽られ、市民間で流血の惨事が引き起こされているキルクークで、多民族共存を貫く住民自治組織があった。地区評議会議長のアジズは胸を張って連帯地区での実践を語った。「占領軍が撤退し、イラク国民が自ら政府を選ぶことができれば、イラク国民は立派に自らを統治することができる」
イラク失業労働者組合の事務所にボランティア活動に来ていた中高生姉妹の言葉が思い出される。「ここにはイラク民衆の良心を代表する人たちが集まっている。非常に感動した。困っている人の手助けができれば」
この一つ一つが希望につながっている。「市民レジスタンス連帯」―日本の戦争政策を止めるためにも、全国各地に広げたいと思う。(終)