ロゴ:カルテの余白のロゴ 2005年04月29日発行885号

手術の決断(上)

 産婦人科というと、「お産」のイメージが先行しがちです。それは自然に見守る、できるだけ介入を避けるというイメージでもあります。しかし、実際は婦人科も産科も、とても手術の機会が多い、いわば積極的介入場面の多い領域です。

 婦人科では子宮筋腫をはじめ、さまざまの腫瘍が卵巣にも子宮にも発生しますし、卵管の炎症などがひどくなると手術的治療が必要になります。産科的には、お産の時の帝王切開や子宮外妊娠、流早産予防の手術など意外なほど手術入院があるものです。

 どんな治療にもあてはまりますが、同じ病名でもその手術方法や手術適応はさまざまで、手術をするのか、どんな方法でするのかは、一つに限定されるものではないことがほとんどです。医師が百%決定して明確な提案をすることは、比率からいうとそれほど高いものではなく、むしろ患者さん自身に決定をゆだねられることがとても多いのです。そして、この場合、女性であるがために、男性とは異なった意思表示の難しさや選択肢の広がりがあります。

 女性の置かれた社会的状況や家庭内の事情がこれらの判断にどういった影響をもたらすでしょうか?

 「朝から出血して、おなかも頻繁に張ります」と、救急受診した妊娠8か月のAさん。

 診察すると、子宮口が指一本以上開いて胎児も下がり気味です。早産の危険性が高く、子宮口を閉じる「頚管縫縮術」をすれば何とか無理のない範囲での普段の生活ができそうですが、手術をしなければずっと絶対安静の入院が必要と思われました。

A「おなかの赤ちゃんは、もちろん大事です。でも、家に残してきた3歳の娘(軽い発達障害がある)も、同じくらい大事です。数日でも、預けたままにはできません」

 医学的には手術がベストと思いましたが、強制入院や無理に手術をしてもかえってストレスでおなかが張ってきそうです。おばあちゃんに3歳の娘さんの育児を全面的にみてもらうことで、Aさんは「自宅で絶対安静」を選択しました。この間、夫も家事に奮闘されたそうです。結局35週で早産になってしまいましたが、Aさんは自分にとって最良の判断と納得されていました。

 周りの反応は、さまざまです。「おなかの赤ちゃんを守れるのは母親だけなのに、身勝手な」「医学的判断を無視するんなら、病院に来なければいいのに」「自分で納得できる方法をちゃんと主張するなんて、なかなかできないよね」などなど‐‐。

 では、「手術を決断する」ということについて、次回は考えてみましょう。

    (筆者は、産婦人科医)

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