死者107人を出したJR西日本(以下JR西)の福知山線列車脱線事故をめぐって、JR西やその職員の「体質」批判が大々的にキャンペーンされている。しかしマスコミや政府が決して触れることのない点、JRへの民営化そして民営化推進の「国策」にこそ事故をもたらした根本的責任がある。
超過密ダイヤと過酷な労務管理
事故の直接の原因は、制限速度70キロとされていたカーブに126キロで列車が進入した結果、遠心力で車体が左傾し、右側車輪が浮き上がったことによるものと伝えられている。
事故の物理的因果関係が明らかにされたとしても、根本原因が究明されない限り、このような無残な事故を繰り返させない保障はない。必要なのは、なぜ運転士が異常な速度で運転せざるを得なかったのかの徹底した究明である。
前の停車駅・伊丹駅で40m(兵庫県警は後に60mと推定)オーバーラン(停止位置超過)し、「定時運行」から1分半の「遅れ」を取り戻そうとしたからといわれているが、問題はこのような判断を同運転士に強いたものは何かだ。
無残な様相の事故現場
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JR西は、福知山線と競合する阪急宝塚線から利用客を奪うために、列車本数を急増させしかも所要時間を短縮する過酷なダイヤ改正を続けた。03年12月、JR西は同線の中山寺駅を快速停車駅に追加した。停車のために所要時間が1分以上増えたにもかかわらず、ラッシュ時でも列車の運行時間を30秒しか増やさず、旅客に対する所要時間表示は同じというダイヤ編成を行った。
JR西の別の運転士の話によれば、それまででも制限速度(直線120キロ)ギリギリの運転をしいられていたものが、過酷なダイヤが押し付けられた結果、非常ブレーキを常に併用しながらの運転をしなければ「遅れ」を避けることができない事態になっていた。
福知山線でATS(列車自動停止装置)の改良が遅れていたことは、この過密ダイヤと密接に関連している。旧式のATSであっても、注意すべき通過地点に地上設備を設置しておけば速度超過をチェックできていたことが明らかになっている。そういう設備があれば無理なスピードアップは最初から不可能で、事故運転士が「遅れ」を取り戻そうとした無理な判断に抑制がかかっていたはずである。
JR西の「運転作業要領」では、建て前上「運転士は列車が遅延したときは、許された速度の範囲内で、これの回復に努めること」と定めている。しかし、速度超過をチェックする装置を設置せず、一方でオーバーランや30秒以上の「遅れ」は報告する義務を運転士に課していた。さらに運転士に対する処分として、乗務停止、賃金・ボーナスカット、「日勤教育」(安全教育とは無縁の草むしりや就業規則の書き取りなど)という名の人権侵害が待ち受けている。
安全な定時運行がそもそも不可能なダイヤと異常な労務管理が事故の根本原因だ。JR西は安全などそっちのけで過密ダイヤどおりに運行することを運転士に強いていたのである。
営利第一主義で安全対策切りすて
乗客の安全よりも営業利益を第一に追求するJR西の企業姿勢は、87年に政府が強行した国鉄の分割・民営化が作り出したものだ。当時の中曽根内閣は、86年4月時点の国鉄職員27万7千人から「余剰人員」として6万人以上を削減し、87年4月から発足させるJRを21万3千人とすることを決定。実際にはこの基本計画要員よりもさらに1万人欠員の20万人でJRは発足した。
制限速度70km/hのカーブに列車は126km/hで進入した
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この大合理化の強行とともに国鉄当局は、分割・民営化に反対する国労組合員に対しては不当な処分を連発し、本来業務からはずして人材活用センターという「収容所」に押し込み、本来業務と関係のない草刈り・文鎮作りなどをさせて屈辱感を与え、当局への屈服を強いる見せしめ的人権侵害を行った。JR西で今行われている日勤教育は、この労務管理手法を引き継いだものだ。
JR西は5万1千人で発足し、その後3年間で4万8千人へと人員を削減した。91年に総務庁(当時)はJR各社への行政監察を行い「営業利益と経常利益が政府当初見通しを上回っており、経営成績はおおむね順調」と評価した。さらにJR各社が目標売上高に対する採算要員数を算定して余剰人員を絞り出す利益第一主義を是認し、JR西については「1万人の余力社員を抱え、適正人員は3万7千人」と公表した。
政府のバックアップを受けてJR西は発足時から2万人近くを削減し、現在の3万2千人にまで合理化を進めた。その裏では労働強化と差別人事による物言わぬ社員作りが行われた。同時に線路の保守点検、車両の検査修繕などの直営作業は外注化し、低賃金の契約社員を駅業務へ配置するなど乗客の安全対策は切りすてられた。
民営化への批判そらす政府・メディア
郵政民営化にまい進する小泉内閣は、今回の事故の根本的責任が国鉄民営化であり国のこれまでのJRに対する行政指導にあることを隠している。大手マスコミもJR西の社員の不祥事をくりかえし強調する一方で民営化にまったく言及しない。
乗客の安全と労働者の権利を切り捨てて営利のみを追及する民営化にこそ真の原因があり、なお続く民営化路線の転換を迫ることが事故犠牲者に対する本当の追悼になる。