ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2005年06月03日発行889号

『命のリレー(中)』

写真:

 「あの、今、ゆれている竹のとなりの松の木なんですがね」

 松田記者は車から降りると、傘もささずにセンターの周りを囲むように生えた木を指差した。

 記者の頭の上に傘をかざしながら私はハチゴローの巣をさがしたが、雨が激しくなったこともあって容易には見つけられなかった。と、そのとき、白いものが松の木の上で小刻みに動いたのだった。

 「いた! わかりました。ハチゴローを見つけました。そうか、あの下に巣があるのですね」

 ハチゴローはその後、頭をひっこめてじっとしているばかり。私は巣があるあたりをうらめしそうにただ観ているだけだった。

 すると松田記者が、「キムさん、ここからの方がよく見えますから」と「センター」の敷地内から大声で手招きしたのだ。「センター」へは一般人は入れない。記者は事情を話して許可を得たと笑った。

 ――もしかすると、コウちゃんに会えるかも知れないぞ。

 私は淡い期待を胸に、絵本の取材以来、3年半ぶりに「センター」の中に足を踏み入れた。

 案内してくださった吉沢飼育員が管理室の窓を開けて、「絵本のこと存じております。さぁ、ここからご覧ください」とハチゴローの巣を指差してくれた。明らかに外で観ていたときとは大違い。はっきりと大きな巣が赤松の枝にかけられていることが確認できた。私はハチゴローの巣のことやセンター内のコウノトリのことなど、多くのことを吉沢飼育員にたずねたが、吉沢さんが、「今は繁殖期なので、ケージに案内するのはできませんが」とおっしゃっていたので、コウちゃんに会うのはあきらめていた。

――けれども、コウちゃんは人間の歳でいえば90歳をとうに超えている。このまま会わずに帰ってしまえば、もう永遠に会えなくなるかもしれない……。

 私はダメを承知で頼んでみた。吉沢飼育員は意外にも簡単に承諾してくれたのだった。

 彼はふたつ隣の部屋に私たちを案内すると、ゆっくりと窓を開けた。するとどうだ! 1羽のコウノトリが雨に打たれるのも気にせず小屋から出て、片足をからだの中にたたみこみながら凛と立っているではないか!

 「この冬はたいへんでした。夫のタマが死んでからは、めっきりと弱っていましたからね。苦手な冬をよく乗り切ってくれましたよ。でも、やはり、くちばしが悪いので、羽づくろいもちゃんとできなくて汚れています。そのへんは、キムさんならよくご存知だと思いますが。今日はどうしてか、外に出ていて」

 コウちゃんはぼくたちと目を合わすこともなく、じっと雨に打たれながら遠くを見ていた。

 「コウちゃん、紫の卵が心配なんだね。大丈夫さ。生まれる。早く部屋にお入り」。私は雨の音に負けない声で話しかけた。

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