2005年06月17日発行891号

【IFC(イラク自由会議) サミール・アディル議長に聞く 国民を分断する移行政府】

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 米占領軍とかいらい移行政府による残虐な砲爆撃とイスラム政治勢力による無差別テロ。その最大の犠牲者のイラク民衆の命と尊厳を護るために市民レジスタンス勢力が立ち上がっている。その先頭に立つIFC(イラク自由会議)の闘いを、来日したサミール・アディル議長に語ってもらった。イラクの民主的未来を確信させるインタビューを、今号から掲載する。


日に日に悪化する治安

Q 移行政府をどう見ていますか?

A 移行政府は、アラウィ政府と何の違いもない政府である。その前の暫定統治評議会とも何の変わりもない政府でもある。もし違いがあるとすれば、いわゆる「選挙」を経て生まれた政府であるというところだ。

 この移行政府は、イラク占領に対して正当性を正式に与えるための政府であり、さらにイラク社会をさまざまな民族・宗派ごとに分断することに正当性を与える政府である。移行政府は、イラク社会を民族的社会であると定義付け、クルド人は2級市民、トルクメン人は3級市民、キリスト教徒は4級市民というように位置付けている。

 また、戦争と占領によって作られたのがこの政府である。それはイラクの国民の目標あるいは希望というものと何のかかわりも持たない。

 4月28日の政府発足以降2か月がたったが、治安の状況は日に日に悪化する一方だ。占領開始以降2年を経ても電気は通じないし、社会サービスも回復していないし、高い失業率も続いている。貧困が人びとの生活を脅かしている。

 この移行政府は、米国にとって意味があるかもしれないけれど、イラク国民にとっては何の意味も持っていない。

 米国がイラクを攻撃するとき、その理由として、サダム・フセインが大量破壊兵器を持っていると言っていたが、その大量破壊兵器が見つからないとなるや否や、今度は別のスローガンを掲げた。イラクに民主主義をもたらすという政策を掲げ始めた。米国がその政策を実行していくあらゆる口実が失われる中で、移行政府が存在することによって、この時期において米国の政策に正当性を与えている。

クルドの民族ダンスを楽しむ参加者
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 移行政府に参加している政党はすべて自らの利益を追求しているに過ぎない。イラク民衆の利害に関心をはらっている政党はそこにはない。

 現在は政府に参加していないスンニ派の最高聖職者協会ハリス・アル・ダリ師は、イスラム革命最高評議会(シーア派政党)の民兵組織であるアル・バドル軍を公然と非難した。アル・バドル軍がスンニ派の人びとに対して誘拐や殺害行為を行っていると非難している。

 移行政府の中心となっているシーア派政党は、そういう殺害を行っている集団であり、これが示すように、今の政府に参加している政党はすべて「暗黒のシナリオ」を構成する政党である。

 タラバニ大統領について言えば、シーア派と協定を結んで大統領になった。タラバニの率いるクルド愛国同盟の政治局員であるフアド・マスームは、キルクークに住むアラブ人に対して「キルクークから出て行け」という脅迫を加えている人物である。

民衆と無縁の国民議会

Q イラクで発せられている非常事態宣言は市民生活にどのような影響をもたらしているのですか?

A 非常事態宣言は決して新しいものではなくて、ポール・ブレマー(米英暫定統治機構行政官)も公布しようと考えたことがある。しかし、実際に非常事態を宣言すれば、バグダッドをはじめイラクの人びとが自分たちの敵になってしまうという恐れから、当時のブレマーは公布を拒否した。

 非常事態宣言の下で、暫定国民議会は週に2回会議を開くが、そのたびにバグダッド市内はいたるところで交通が遮断され、人びとは往来ができなくなる。「市民が市内を自由に行き来できない状況を作り出すために暫定国民議会は開かれているのではないか」とバグダッドの人びとは語っている。

 日本に来る2週間前のことだが、バグダッドのあらゆる通りがカラになった。治安対策ということで交通を完全にシャットアウトしてしまうからだ。一週間で仕事をする日のうち2日間は、暫定国民議会の開会の安全対策という理由で、すべての交通が遮断される。金・土は休日で、残り5日間のうち2日間は何も活動ができなくなる。これは誇張ではない。

 今回、私とともに来日したイラク女性自由協会のエルハムはバグダッドに初めて来て、こんな状態で人びとがどうして生活していけるのか驚くと言っていた。

 私が今回の来日のためにバグダッド空港に向かった時、普通なら15分で行けるところが1時間半かかった。「今日は国民議会の開催日でないのに、なぜなんだ?」と運転手に聞いたところ、休日と国民議会の日以外の日で、市場に買い物に行ったり、いろいろな用事を済まさなければならないから、いたるところに人びとが殺到するという答えが返ってきた。国民議会の開催日でない日も大混雑になってしまう。

 非常事態宣言は、人びとの生活をよくすることや、治安を確保することには全く役に立たず、移行政府に参加している政党を利するものでしかない。

 一昨日も、イスラム主義者たちがバグダッド空港近くで自殺爆弾を爆発させた。イスラム主義者の伝統で、TNT火薬をベルトで体に巻きつけて自爆する。これをコントロールすることはできない。チェックポイントでチェックすれば爆発するわけだし、チェックしなくても爆発する。また、車に爆弾を載せて検問所に突入する。誰もそれについてコントロールできないという状況がある。

 自爆攻撃をなくそうと思ったら、軍事的手段や諜報活動でそれをなくすことはできない。このテロリズム攻撃をなくそうと思ったら、社会的・政治的な闘いが必要なのだ。

 移行政府も、占領軍も、西側の偏ったメディアも、テロについては、占領軍や彼らの勢力が攻撃されたときだけ、それをテロだという。しかし、われわれからすれば、一般の民間人や民間人の集まる場所に対して攻撃が行われ、多くの普通の人びとが殺されることこそテロリズムである。ところが占領軍もメディアも、バグダッドのアルマダエンやアルシャーブというところで民間人が殺されたときでもそれに何の関心もはらわない。

         (続く)

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