2005年06月24日発行892号

【IFC(イラク自由会議)サミール・アディル議長に聞く (2) 占領軍のテロ肯定する移行政府 ―イラク市民の信頼はゼロ―】


写真:発言しているサミール・アディル議長

 前号に引き続きイラク移行政府に関するサミール・アディル議長のインタビューを掲載する。


保身のために占領支持

Q 占領支配について移行政府はどのような姿勢をとっていますか?

A 移行政府は、イラク西部カイムに対する米軍の非常に野蛮な攻撃(注)を支持した。ジャファリ移行政府首相は、「カイムの住民たちは、テロ行為に対する責任を負わなければならない」「起こったことの責任はカイムの住民たちにある」といって米軍の攻撃を支持した。

 これが彼らの使っている論理だ。こういう論理が正しいということになれば、フセインが独裁者だったから経済制裁も正しかったことになる。また、広島・長崎に対する原爆投下も日本が軍国主義だったからやむをえない、というようにあらゆることが正当化されてしまう。

 これは非常に民族主義的な論理だ。ジャファリは、カイムはスンニ派の街であり、スンニ派住民はスンニ派のテロの責任を負わなければならないと言った。

 この移行政府によって、イラクにおける民族間紛争は非常に深化してきている。移行政府自体がテロリズムの一環を構成しているが、しかし誰も移行政府のテロについては言わない。

 移行政府は米占領軍のテロに正当性を与えるためのものに過ぎない。米軍が人びとの暮らしているところに攻撃を加えても、移行政府から見ればそれはテロではない、ということになる。他方、米軍に対して攻撃が行われるときは、それをテロリズムという。

写真:イラク全土の地図

 移行政府がイラクにおける治安の問題を解決することは一切できない。なぜなら、移行政府自身が治安悪化を作り出している存在だからだ。

 移行政府は占領軍のかいらい政府に過ぎず、何の力も持っていない。イラク国民も何の信頼もおいていない。憲法草案が作られ、国民投票が行われると言っても、それは1月の暫定国民議会選挙が行われる前の状況と同じだ。選挙が予定されていても、米軍はファルージャを攻撃し、ナジャフを攻撃し、バグダッドのアルサウラ地区を攻撃した。それとまったく同じことだ。

 ジャファリは「占領が終わるということを語る者がいるが、それは夢を見ているようなものだ」と語り、移行政府の外相は「占領軍が撤退してしまうことを非常に心配している」と語った。移行政府の政治家たちは、戦争と占領がなければ自分たちが大統領や首相や閣僚の地位に就けなかったことを知っている。

 カイム攻撃と憲法草案・国民投票との関連だけれども、国民投票にしても憲法草案にしても、これらは米国の政策を正当化するものにすぎない。つまり大量破壊兵器が見つからなかったという中で、戦争と占領の口実として彼らが持ち出してきているのが民主主義であり、サダムの独裁からイラク国民を救うということであって、憲法草案も国民投票もそうした米国の政策に正当性を与えるために用いられているのだ。

移行政府を皮肉る市民

Q 移行政府発足のもたつきをどう考えますか?

A 移行政府は社会的基盤をもっていない。イラク国民は、民族主義の基盤に立つ移行政府を何ら信頼していない。

 発足に2か月以上かかったことでジョークがうまれた。人間から、「21日もたつのになぜ卵を産まないのか」と非難されたニワトリが、「そういうお前たちの国民議会は2か月も経つのに政府を作れないじゃないか」と答えたとさ―。このジョークに示されるように、移行政府はイラク社会の中に何の基盤も持たない存在なのだ。

メーデーを祝う南部バスラの労働者
写真:集会に集まった労働者たち

 法や憲法もなければ、警察も存在しないという中で、移行政府はイラク社会を民族間紛争が激化する状態に投げ込もうとしている。

 バグダッドのアルシャーブ地区でスンニ派の武装集団がシーア派の家のドアをたたいて「お前はシーアか?だったら殺す」と言い、逆にシーア派武装集団がスンニ派の家に行って「お前はスンニか?だったら殺す」と言う。コソボやルワンダで起こったような民族間紛争を煽りたて、この社会を非常にもろい状態にしてしまおうとしている。現在のところ、民族間紛争が野放しで行われるという状態を作り出すことに成功していないけれども、半年もすればどうなるか分からない。

 いまの移行政府はひとつの野合体であって、政府を構成する政党はそれぞれ自分の利害しか追求していない。これは政府とはいえない。いつ分裂瓦解してしまうかかわからないという状態であって、野合しているにすぎない。

 IFCの掲げる「民族間戦争をとめるために政教分離の民族主義でない政府を作ろう」というスローガンがいまイラク国民の間に大きな共感を広げている。占領を終わらせることなしに、政教分離の憲法を作ることなしに、平和や安定をイラクにおいてかちとることは絶対にできない。

 つまり、占領がイスラム主義者に対してその存在の口実を与え、占領こそが、イスラム主義者の犯罪を正当化する根拠を与えている。「占領に反対して戦う、レジスタンスをする」という形でイスラム主義者のさまざまな犯罪に正当化の口実を与えている。

 2年が経つのに、何らの社会サービスもない。占領に対して一切の共感がないことが問題を生み出している。移行政府は何も問題が分かっていないけれど、イラク国民の90%以上は占領に対して一切共感を示さず、むしろ占領を憎んでいる。

 だから占領に対する憎しみが、イスラム主義者のテロ行為を社会的に容認する根拠を与えている。イラク警察やイラク軍が「どこがテロリストの家か?」と聞いても、彼らに何の共感もないから何も答えない。占領を憎み、占領に協力するイラク軍・イラク警察が憎しみの対象になっているということが、イスラム主義者のテロを社会的に隠蔽する役割を果たしている。だから、テロと闘うには、軍事的な武装闘争ではなくて、政治的社会的な闘いを行わなければならない。このことを私はいろいろな記事で書き、衛星テレビに出て強調している。軍事的手段では闘えないことを強調している。

(注)カイム攻撃

 5月8日、米占領軍はイラク西部アンバル州とシリアとの国境沿いにある街カイムを戦闘機・攻撃ヘリ・戦車や1千名の部隊を投入して攻撃を開始、1週間にわたって住居地区への砲爆撃や住民狙撃を繰り返し100名以上の市民を殺害。移行政府はこの攻撃に合わせて非常事態宣言を延長した。6月に入っても米軍はカイムに対する空爆を行ない40人以上の市民を虐殺した。

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