2005年07月22日発行896号

【期待高まる無防備国際シンポ / 前田朗さん(東京造形大学教授)に聞く / 非武装国は特異な例外ではない / 日本発「無防備地域運動」を世界へ】

国際シンポジウムへの期待を語る前田朗さん
写真:国際シンポジウムへの期待を語る前田朗さん

 「無防備地域宣言運動国際シンポジウム」が7月30日、横浜市内(午後1時・鶴見会館)で開かれる。海外ゲストはアメリカ・バークレー市平和と正義委員会のスティーブ・フリードキンさん、イラク自由会議のアザド・アフマドさん、そしてスイスのNGO・APRED(脱軍事化を求める協会)のクリストフ・バルビーさん。バルビーさんは今春、ジュネーブでの国連人権委員会会期中に「27の非武装国家」というセミナーを主催した一人だ。セミナーには東京造形大の前田朗教授が参加し、日本の無防備地域宣言運動を紹介した。バルビーさんの紹介と合わせて国際シンポジウムへの期待を前田さんに語ってもらった。(7月6日、まとめは編集部)

27の非武装国家

◆セミナーはどんな内容でし たか。

 バルビーさんはスイスの弁護士で、APREDのコーディネイター。著書に『脱軍事化と軍隊のない国家』がある。

 「27の非武装国家」によると、ヨーロッパにはアイスランドやリヒテンシュタイン、インド洋にはモルジブ、太平洋ではクック諸島やミクロネシア、中南米ではコスタリカやハイチといった非武装国家がある。古くからの非武装国もあるが、第2次大戦後に非武装になった国も結構ある。

 日本では「憲法9条の非武装は時代遅れだ」と改悪が主張されるが、バルビーさんの資料をみると、80年代90年代に非武装国が増えている。しかも、主に民主主義的な国家で、女性の権利を保障し、死刑廃止国が多いという。

 ブッシュ政権は対外的な侵略政策と裏腹に、国内では愛国者法のような法律をつくり、政治的反対者に弾圧を加えている。日本でもイラクに自衛隊を派兵する一方で、ビラ配りまで取り締まっている。対外的に軍事侵略をする国は、国内でも国民まして在住外国人の人権を保障しない。一般化はできないが、バルビーさんの指摘は納得できる。

 非武装国は、人口数万から数十万の小さな国が多く、かつ島国が多い。小国の特殊な例とも想定できるが、100万単位の国も3つある。ハイチは人口800万でスイスやノルウェーのクラス。決して特異な例外ではない。

 小沢一郎が「普通の国」と言って以来、国際貢献論を皮切りに戦時体制がつくられてきたが、彼の「普通の国」とはアメリカ。これは普通の国ではない。

 現在の世界の軍事予算の47%はアメリカ1国が占め、5%前後の国はロシア、イギリス、日本、ドイツ、フランス。これらが異常なのだ。1%以下の国が圧倒的多数。普通の国というなら、小沢の議論は基礎的な認識が違っている。普通の国は非武装に向かう可能性が十分にある。

 日本の憲法学は世界の憲法状況や外交・防衛に関わる問題をきちんと見渡してこなかった。非武装国家がいくつあるかも議論されていない。ここにバルビーさんを紹介する意味があると思う。

日本の運動に関心

◆セミナーで前田さんはどん な話を?

 日本には憲法9条があるが、実質的に軍隊がつくられ、アメリカの戦争に直接協力するようになった、日本の平和運動の力不足が恥ずかしいと話した。ヨーロッパの人たちは9条も自衛隊のイラク派兵も知っていて、「9条は非常に重要。改悪されないようにしてほしい」と励ましを受けた。

 同時に、日本の市民は今、世界にも例のない新しい平和運動の努力をし、世界最初の無防備都市を実現するため競争している。この無防備都市を広げることが9条の実現につながると日本の運動は確信している。そう伝えた。

 バルビーさんは無防備地域は知っていたが、「運動になるとは思わなかった。詳しく知りたい」と関心を寄せていた。

◆前田さんは無防備地域を世 界から日本へ、日本から世 界へと主張されていますが。

 1977年に追加議定書をつくった当時、国際法の権威だったジャン・ピクテ教授は著書『国際人道法の形成と発展』の中で、無防備都市は古くからあると書いているが、具体的にどことは示していない。無防備地域の考え方が意識的に形成されるようになったのは1907年のハーグ条約から。人類の歴史の中で戦争とともに起きていたであろう事態を、ハーグ条約で規定し、ジュネーブ条約が発展させ、要件を明確にしてきた。

 ハーグ・ジュネーブ両条約ともヨーロッパ主導でつくられたが、その中に様々な人道的な規定が入り、無防備の規定が入り、世界をカバーをする国際法に発展してきた。

日本各地で広がりをみせる無防備地域宣言運動
写真:日本各地で広がりをみせる無防備地域宣言運動

 その無防備の活用を日本の平和運動が思いつき、大阪発という形になった。ハーグからジュネーブを経て、大阪で受けとめた。そして、日本各地に広まり、札幌でも沖縄でも市民が関心を寄せている。まだまだ広がる可能性がある。

 署名は集まる。無防備を呼びかけ、地域で平和のためのコミュニケーションをやり、みんなで平和のための議論を繰り広げる。これはできるとほぼ確定している。

欧州・アジアへ広げる

 課題は議会での否決事例を積み重ねないこと。藤沢では、自治体も宣言できるという赤十字国際委員会の見解を市議会で出させるところまで来た。さらに前進して、どこで採択するか。展望は出てきた。

 採択されれば、そこから、日本から世界へということになる。以前は憲法9条を日本から世界へと言っていたが、今は恥ずかしくて言えない。

 現代国際法の中身である無防備地域を日本ではこう使って組み立てました、これを世界のあちこちで活用できませんか、という話に当然持っていける。

 そうであれば、かつてスイスで取り組まれた「軍隊のないスイス運動」に重なる。国民投票の制度を使って投票に持ち込み、過半数に至らなかったが30%を集めた。

 セミナーで、スイスの人権・平和活動家のミシェル・モノーさんは「州ごとならできるのではないか。検討してみたい」と言っていた。やり方と成果を日本から伝えれば、スイスの運動も動くと思う。そこにも、今回バルビーさんに来てもらう意味がある。まずはスイスに持ち込み、ヨーロッパ、アジアにも持っていけるのではないか。

新しい平和運動

 反戦運動をあれだけやっても軍隊はイラクに行ってしまったとがっかりするだけでなく、どうしたらいいのか考える。政府を止めることはできなかったが、自治体レベルから運動を再構築できないかと関心を持てば、この運動は世界に広がっていくだろう。

◆国際シンポジウムに期待す るものは。

 国際シンポの目的は、日本発の運動を、関連する運動に取り組む3か国の人と共有して次の運動につなげること。さらにイラク市民レジスタンス・イラク自由会議が一番困難な中で闘っている理念をどう共有し、どう連帯していくかを議論すること。無防備と市民レジスタンスの共通する部分を重ね合わせながら、非暴力・平和主義の運動を構築していくことになり、興味あるテーマだ。

 スイスやバークレーに無防備の運動と市民レジスタンスの運動を両方持ち帰ってもらい、広げてもらいたい。そのきっかけを横浜でつくれるのではないか。

 無防備地域運動は、非暴力の平和運動のあり方として従来にないパターン。今の戦争とテロの状況の中で、国際法を使って従来の運動を建て直し、なおかつ国民保護計画と闘うという組み立て方をしている。その意味は非常に大きい。

◆ありがとうございました。

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