2005年09月09日発行902号

スイス・APRED(脱軍備・非武装化を求める協会) クリストフ・バルビーさんに聞く

【無防備地域宣言運動は脱軍備運動の一つ 国際人道法に新たな命を吹き込む】

 スイスのNGO・APRED(脱軍事・非武装化を求める協会)のクリストフ・バルビーさんに、スイスの運動や非軍事化の展望について聞いた(7月29日、まとめは編集部)。


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軍事予算を削減させた

◆ スイスの運動について。

 スイス平和運動の焦点の一つが、良心に基づく兵役拒否を認めるよう求める運動です。

 スイスでは国民投票の日が2、6、9、11月の年4回決められています。投票を実施するには有権者のおよそ2.5%にあたる10万人の署名が必要です。数が満たされれば、署名の審査や議会の議論を経て2年後くらいに投票が実施されます。

 1982年、良心的不服従を認めるよう憲法を改正する国民投票を要求しましたが、否決されました。軍人組織など反対派は、これを認めると軍隊の解体につながると主張しました。

 これに対して軍の否定がなぜ悪いのかと、1986年に軍の解体を求める署名を集め、1989年に国民投票が実現しました。この時はベルリンの壁が崩壊した直後だった政治状況もあり、普通は45%位の投票率が72%に達し、35・6%が賛成しました。結論から言えば負けたわけですが、かなりの数の国民が軍をなくそうという意見になったという意味で成果がありました。

 その後も、私たちは良心的不服従の問題を中心に多様な平和運動を展開し、再度2001年に国民投票となりました。この時の賛成は20%でした。結果として後退はしたのですが、5人に1人が賛成しているという意味ではそう悪い結果ではありません。伝統的に軍隊を支持してきた教会が、国民投票の結果を見て、支持を得るためにこれまでの方針を変えざるをえなくなるといった状況が生まれています。

 今年は初めて軍事予算の削減に成功しました。このようにスイスの平和運動は大きな影響力を持っていると言えます。

 IFC(イラク自由会議)はスイスではまだ余り知られていません。非暴力で民主的なイラクを建設しようという組織があることをもっと宣伝する必要があります。フランスで市民レジスタンス連帯の運動をしているSIF(イラク連帯・フランス)ニコラ・ドウッソーさんのような、草の根からの運動が大変好ましいと感じています。

◆世界の平和運動について感じることは。

 イラク反戦運動の特徴的な点として、“NO WAR”というスローガンに見られるように、戦争という手段で解決するなという動きが強まったことがあると思います。デモのような行動に立ち上がる人が増えているように、世界の平和運動は明らかに成長しています。戦争が無いときに、恒常的に平和を作り出すという活動が必要です。

 戦争を遂行している国家を含めて、民主主義はあらゆるところで広がらなければなりません。女性をふくめて人権が保障され、多様な宗教を認め合う、そのような社会に到達するのは時間がかかるかもしれません。しかし、どんな制度も人間が作ったものなのですから、人権に基礎を置いて取り組む限り、変革は可能だと思います。

人権ベースの平和運動

◆日本の無防備地域宣言運動について感じることは。

 平和という課題は、国や共同体などあらゆるレベルで追求されるべきです。無防備地域宣言運動はそのような脱軍備運動の一つだと思います。

 私は、国際人道法自体は戦争法規として生まれた過程もあり、あまり高く評価しないのですが、日本の人々が国際民衆法廷を人道法に基づいて展開して新たな命を吹き込んだことはすばらしいことです。

 日本には過去の栄光にすがっている人たちもいるようです。戦争への罰として導入されたすばらしい憲法9条がありながら、日本が世界3位の軍事大国であるという矛盾には考え込まされます。ここには大きな偽善が働いているような気がします。

 それに私が対置するのは人権です。これをベースに平和運動を発展させる必要がある。反対運動ばかりが平和運動ではありません。目的は平和の構築なのですから追求する過程においても、平和的な立場、人との争いを避ける立場で運動を進める必要があります。

 日本が非武装化して失うものは何もないでしょう。どこかの国が日本を侵略するかと言えば想像しにくい。今、極東では台湾問題や北朝鮮の問題など、緊張が高まる傾向がありますが、非武装化している国の多くは緊張の中で実現しました。現在の状況は決して障害にはなりません。

 2015年に、スイスは永世中立の宣言以来他国を侵略しない500周年を迎えます。日本の憲法も同じことをうたっています。他国を侵略しないという私たちの思想は共通しています。

◆ありがとうございました。

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