2005年10月21日発行908号

【大阪高裁 / 靖国参拝 違憲判決 / 実質的には小泉首相の敗訴 / 政教分離は平和憲法の大原則】

 小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐる訴訟の判決(9/30)で、大阪高裁は「参拝は首相の職務として行われており、憲法が禁止する宗教的活動にあたる」との判断を示した。憲法の政教分離原則にもとづき、首相の靖国参拝を違憲とする司法判断が下された意義は大きい。政教分離の観点から靖国問題を考えてみたい。

判決を無視する小泉

 小泉首相の靖国神社参拝をめぐる訴訟の判決は、全国の6地裁と3高裁で計11件言い渡されている。憲法判断に踏み込んだのは「参拝は違憲」とした昨年4月の福岡地裁判決に続いて今回の大阪高裁判決が2件目。高裁での違憲判断は初めてのことだ。

高裁判決を受け会見する台湾人チワス・アリさん(中央)
写真:高裁判決を受け会見する台湾人チワス・アリさん(中央)

 大阪高裁判決は小泉首相の靖国参拝について、「公用車を使用し首相秘書官を伴っていた」「参拝は公約の実行としてなされた」「私的参拝と明言せず、公的立場を否定していない」などの理由をあげ、首相の職務としての「公的性格」を持つと認定した。

 そのうえで、小泉首相が「国内外の強い批判にもかかわらず参拝を実行、継続している」ことは、「一般人に対して国が靖国神社を特別に支援しているとの印象を与え、特定の宗教に対する助長、促進になる効果が認められる」として、憲法20条3項が禁止する国の宗教的活動にあたると結論づけた。

 実に明快な論理であり、憲法の政教分離原則にもとづいた当然の判断である。原告の損害賠償請求は認められなかったが、実質的には靖国参拝に固執してきた小泉首相の敗訴と言えよう。

 判決を受けた小泉首相は「なぜ憲法違反なのか。理解に苦しむ」といったコメントを連発。今秋の靖国参拝強行をほのめかす声も首相周辺から出ている。自分が理解する気がないから司法判断を黙殺していいとは、何という思い上がりであろう。

 小泉が違憲判決をことさら無視する姿勢をとっているのは、世間へのアピールという意味合いがある。「政教分離などたいした問題ではない」との印象を人々に与えようとしているのだ。

政教分離の意味

 こうした小泉流ペテン術に引っかからないためには、日本国憲法の政教分離原則が持つ意味を歴史的な文脈を踏まえて確認する必要がある。

小泉首相に靖国参拝の中止を求める人々
写真:小泉首相に靖国参拝の中止を求める人々

 「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」(憲法20条3項)。これほど厳格な政教分離の規定を日本国憲法はなぜ設けたのか。それは侵略戦争の反省からである。政教分離は「信教の自由」に関連した一規定にとどまらない。憲法9条と同様、憲法20条は平和憲法の核心をなす戦争禁止条項なのだ。

 戦前の日本は国家(天皇)を神とする宗教国家の性格を有していた。「国民はお国のために命を投げ出せ」という軍国主義思想を国家神道という宗教にのせて国民に植えつけていた。戦死者に国家的栄誉を与えることによって新たな兵隊の調達を図る−−靖国神社はそうした国家儀礼の中心施設であった。

 このような戦争動員のマインドコントロールを二度とくり返さないために、日本国憲法は国家の宗教的活動を全面的に禁止した。国家が個人の内心に入り込み、侵すことのないように縛りをかけた。哲学者の高橋哲哉が指摘するように、天皇制国家を主権在民国家にするための大原則が政教分離であった。

狙われる20条改悪

 その縛りを日本政府は解こうとしている。既成事実の積み重ねによって憲法の規定を有名無実化し、明文改憲で仕上げをする。事実、自民党の「新憲法草案」は政教分離規定の緩和を打ち出している。狙いはもちろん靖国神社の今日的復権にある。戦争への精神的動員装置として再び活用しようとしているのだ。

 「時代状況が違う。靖国神社の復権など考えられない」という人は、イラク派兵を閣議決定した際の小泉首相の国民向けメッセージを思い出してほしい。いわく「危険を伴う困難な任務に赴こうとしている自衛隊に、多くの国民が敬意と感謝の念をもって送り出していただきたい。日本国民の精神が試されている」

 小泉のいう「日本国民の精神」が「犠牲に耐えて国家に尽くすこと」を意味することは明らかだ。危険な任務に赴く自衛隊に国民は感謝し、自らも国策(イラク派兵)に協力すべきだと訴えているのである。これはまさに靖国思想そのものだ。小泉が靖国参拝に熱心なのは、新たな戦死者を想定し、その顕彰施設として靖国神社を位置づけているからなのだ。

   *  *  *

 小泉内閣が憲法を土足で踏みにじり戦争準備を進めようとしている今、政教分離の原則をあらためて確認した大阪高裁判決の意義は大きい。政府が判決をおとしめようと必死なのは、彼らの焦りをあらわしている。小泉の靖国参拝・戦争国家づくり策動を許さぬ包囲網を地域から構築していく必要がある。 (M)

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