イラク戦争後2年9か月。事実上の戒厳令下、「国民投票」が実施される。しかし、いかに「政府」をでっち上げたとしても、電気・水道などライフラインは破壊されたまま、市民生活は悪化の一途をたどるのは目に見えている。ガソリン・スタンドには、相変わらず給油を待つ車が長蛇の列をなしている。クルドの町々で住民の怒りが爆発していた。(豊田 護)
汚職まみれの政府
「選挙の後、多くの人々はこれで自分たちの生活は変わる、電気も来ると考えた。しかし、選挙の後も前と同じ。何も変わらなかった」
道路わきで売られる闇ガソリンを買うノザッドさん(右)(11月1日・スレイマニヤ郊外)
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スレイマニヤ州の小都市ラーニアで聞いた言葉だ。今年1月、移行政府を選出する国会議員選挙が行われた。スレイマニヤを支配地とするPUK(クルド愛国同盟)の党首タラバニが大統領に就いた。イラク東北部クルドの地域では期待が高まっていた。しかし、現実は変わらなかった。電気も水も改善される気配すらなかった。
ラーニアで出会ったイラク労働者共産党員オマルが民衆の気持ちを代弁した。
「KDP(クルド民主党)やPUKの政府は米国の要求には答えるが、民衆の要求には答えない。米国から資金援助を受け言いなりになっている。役人はワイロを要求し、政党指導者は予算をピンはねしている。汚職まみれの最悪の状態だ」
横行する闇市場
戦闘直後の2003年5月、イラク各地でガソリン・スタンドに並ぶ車の列を見た。それから2年半。5回にわたってイラクを訪問したが、同じ光景が続いていた。
「一度入荷しても半日で売り切れのときもある。2日と持たない。次の入荷はいつになることやら」
ガソリン・スタンドの閉鎖で最近職を失った労働者がガソリン不足の実態を話してくれた。スタンドでガソリンを買うためには、政府が発行する証明書が必要だ。居住地域ごとに範囲が決められている。どこでも買えるわけではない。スタンドでは2日並んでも手に入らない。なぜこんなにも品不足なのか。
「タンクローリーごと横流しされている。政府の要人が絡んでないとできないことだ」
どの都市の郊外にも、道路脇にポリタンクでガソリンを売っている人がいた。少年が座っていることもある。値段はスタンドで買う場合の二十数倍にもなっている。どれだけのガソリンが闇市場に流れているのか定かではない。だがこの利ざやは馬鹿にはならない。
デモで要求する民衆
電気の事情もこの2年半、まったく変わらない。スレイマニヤ最大の配電所で働くノザッドは「政府のサボタージュが原因だ」と言う。「政府は、資金は十分あるといいながら、火力発電所で使う重油が調達できないと言い訳する。大きな水力発電所もあるが、それは老朽化していると言い逃れる。2年、3年と時間があっても何もしなかった」
クルド地域は治安も比較的よく資金もある。なぜ施設の復旧・建設ができないのか。民衆はたくさんの「なぜ」を感じている。
「1か月ほど前、カラールでは人々の怒りが爆発し、PUK政府に対しデモを行った。電気、水の改善、青年センターの建設、病院やその他のサービスの確立を要求した。当局は銃撃で答えた」
PUKの支配地域にある小都市カラールで、青年・学生は近代化委員会を結成し、行動に立ち上がった。「消防署や教育関係の建物を焼き討ちしたのは当局のスパイだ」と人々は思っている。撃たれた学生は足を切断した。
民衆は、銃を恐れることはなかった。学生たちは、カラール・スレイマニヤ合同委員会へと組織化を進めた。住民の闘いは、他の都市でも起こっていた。 (続く)