昨年イラクで行われた「議会選挙」の結果が公表された。数々の不正の指摘は、議席配分をめぐる政党・党派間の抗争に利用されただけで収拾した。占領を受け入れ利権争いに走る参加政党は腐敗を極め、発足を急ぐ「新政府」はイラク民衆の願いとはほど遠い。民衆の怒りは頂点に達している。反占領、政教分離と自由・民主主義の実現を掲げるイラク自由会議(IFC)の主張と成果がより広く発信されれば、支持は確実に広がる。(豊田 護)
屋根の上にはパラボラ・アンテナ(スレイマニヤ郊外)
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機関紙配布にも妨害
昨年12月初め、イラク北部スレイマニヤで労働者が逮捕された。この地域を支配するPUK(クルド愛国同盟)の治安警察が、WCPI(イラク労働者共産党)のメンバー3人を拘束したという。その中には、11月の取材で、インタビューをした人々が含まれていた。
治安警察は、地方政府の許可なくビラをまいたことを逮捕理由にしている。ビラは政府内部の汚職を糾弾するWCPIの声明だった。
イラク全土で、治安と生活の悪化に民衆の怒りは高まっているが、占領軍・かいらい政権は暴力で抑え込んでいる。
「警察は、わたしが街頭で機関紙を配ろうとすると、いつも捕まえに来る」とWCPIの機関紙担当者アザド・ハミが言ったことを思い出した。警察の妨害は毎度のことだ。アザドはスレイマニヤ市の中心部で通りに机を出して機関紙配布を行う。各家庭には郵便受けがなく、日本のような戸別配布はできそうにない。
「路上でじゅうたんを売っている人たちがいる。生活用品を売る露天商もいる。彼らに機関紙を配布するのも私の仕事だ」
WCPIの機関紙担当のアザド・ハミさん
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機関紙を受けとる彼らもまた警察から攻撃される。「お前たちのせいで街が混雑する」と投獄される人まで出ている。
アザドは言った。「機関紙を配って、みんなに聞くのさ。どうすれば解決できるかってね」。
普及する衛星放送
スレイマニヤの街で、イスラム政治勢力の衛星放送局を見かけた。大通りに面してはいたが、建物の大きさは普通の民家とさほどかわらない。発信用のアンテナも、一般家庭でも持っていそうな大きさだった。玄関に放送局の看板がなければ気がつかない。
「衛星テレビ局のほとんどは宗教団体や民族政党・団体がやっている。占領軍や周辺諸国から資金を受けられるところばかりだ。彼らは24時間、自らの主張を放送できる」
スレイマニヤ市民生活防衛委員会の代表の一人アクラムはいまいましそうに言った。
イラクは衛星放送が普及している。いかにも”貧困”を連想させるトタン板で覆われた家にも、受信用のパラボラ・アンテナがたっている。アンテナとチューナーのセットは100ドルから250ドルで手にはいる。テレビが150ドルから300ドル。受信料は必要ない。治安が悪く、仕事もない。人々はテレビの前で過ごす時間が多くなる。
イラクで利用できる放送用衛星は25個にのぼり、1つの衛星で40局もの番組を放送しているものもあった。周辺アラブ諸国ばかりでなく、欧州など他言語の番組を見ることができる。
「ホット・バード」衛星は、米国を除くほとんどのエリアを送受信可能範囲としている。英国BBC放送もこの衛星の放送局リストの中にあった。アラビア語やクルド語など、実際民衆が理解できる局がいくつあるのかはわからないが、どのチャンネルも音楽や娯楽番組が主流である事情は、日本と変わらなかった。
開設へ資金集中を
イスラム政治勢力の衛星放送局
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IFC議長サミール・アディルはきっぱりと言った。
「開設費用はホット・バード衛星で40万ドル程度だ。維持費はほとんどかからない。イギリス・イタリア・フランス・日本に向けても発信したい。開設にむけ集中して取り組みたい」
IFCが衛星放送の開局をめざすという。「われわれに衛星放送があれば、状況を一変できる。IFCは第1党になれる」。
決して根拠のない願望でも強がりでもない。IFCは、議会選挙に反対するグループの中で大きな影響力をもっている。12月27日に取り組まれた抗議行動の中でIFCの声明が歓迎され、ファルージャやラマディでもビラを配布したいと申し出る人もいたという。
「IFCはいくつかの武装勢力の拠点地域に公式文書を送っている。中には、支持を表明する地域も出てきた。いずれにしても民衆はIFCの政策を支持している」
サミール・アディルは自信を持って言った。
IFCのモデルといえる地域−キルクークのアル・タザムン(連帯)地区評議会議長のアジズは「IFCがかかえる問題は、メディアを持っていないことだ」と言った。
IFCの主張やアル・タザムン地区の成果が世界に向けて発信されれば、必ず支持は広がる。衛星放送局実現へ、資金の集中が求められている。 (続く)