2003年11月のロンドン公聴会の「2003年のイラク戦争における連合軍による戦争犯罪申立てについての調査報告書」は、まず「捜査のための出発点」として、イラクにおけるイギリス軍による軍事攻撃(2003年3月・4月)を国際刑事裁判所(ICC)規程の戦争犯罪であるか否かを検討するべき理由を明らかにする。報告書は、戦争犯罪が行なわれたことの明らかな場合はもちろん、その疑いを示す証拠があれば、検察官は捜査を行なうべきだとする。NATO軍によるユーゴ爆撃がなされた際に、旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷の検察官が訴追を控えた事例を検討し、NATO軍によるクラスター爆弾の使用など戦争犯罪の疑いが十分指摘されていたことを確認し、イラク攻撃についても同様であるとする。
次に、クラスター爆弾の使用である。イギリス軍は、イラク攻撃において、約70発のRBL755クラスター爆弾(147の子爆弾をもつ)をバグダッドに、2000発以上のL20クラスター爆弾(49の子爆弾)をバスラ周辺に投下した。イギリス軍もアメリカ軍も、クラスター爆弾を軍事施設に対してのみ用いたと公表している。クラスター爆弾そのものが国際法によって禁止されているか否かは明らかではないかもしれない。しかし、国際刑事裁判所規程8条2項では、民間住民に対する意図的な直接攻撃、および民間人の生命を損なう無差別攻撃を禁止している。国際人道法の歴史における解釈に照らして、バグダッドやバスラのような都市に対するクラスター爆弾の使用は、これらの禁止条項に違反し、戦争犯罪となると報告書は指摘する。
その他の問題として、報告書は、アル・ジャジーラやアブダビTVに対する攻撃、ジャーナリストが滞在していたパレスチナ・ホテルに対する爆撃は軍事的理由のない民間人攻撃であるとする。2003年3月26日のバグダッドの商業地区アルシャーブに対する爆撃による14人の民間人の死亡、3月29日のシューラ地区の市場に対する爆撃による50人以上の民間人の死亡、バスラとバグダッドにおける電力施設に対する爆撃などは戦争犯罪の疑いがあると指摘する。
報告書は、イギリス政府の個人の刑事責任について検討している。犯行地であるイラクは国際刑事裁判所規程を批准していないが、イギリスは2001年10月4日に批准しており、規程は2002年7月1日に発効した。国際刑事裁判所は、それ以後に行なわれた戦争犯罪を命令、教唆、幇助した者に管轄権を有する。さらに、報告書は、イギリス国籍者がアメリカと共同して行なった行為について裁判所の管轄権が及ぶか、も検討している。連合軍によるイラク攻撃に国際法上の正当化事由があったか否かが問題となるが、そうした事由は存在しないので、国際刑事裁判所はイギリス国籍者を訴追することができる。
報告書は、最後に占領について補足的に検討している。第1に、イラク占領はハーグ陸戦法規慣例規則43条に違反していないか。第2に、1949年のジュネーヴ第4条約55条などに違反していないか。これらは国際刑事裁判所規程における「ジュネーヴ諸条約の重大な違反」の有無にかかわる。第3に、占領軍が文化遺産保護をしているか。第4に、占領軍の行動が国際人道法上の占領国の義務に違反していないか。
検討の結果として、報告書は国際刑事裁判所による戦争犯罪容疑者に対する捜査の必要性を力説している。国際刑事裁判所検察官は各国政府から独立して公平に戦争犯罪の捜査と訴追を行なうべきである。国際刑事裁判所には補足性の原則があるが、イギリス政府が自らの戦争犯罪を捜査する兆候はないので、国際刑事裁判所による捜査が必要であり、補足性の原則に反しない、と。