2006年03月10日発行926号

【女系天皇ドタバタ劇 / おぞましい差別体系あらわに / 天皇制自体がいらない】

 女性・女系天皇を認めるか否か−−。小泉首相が固執していた皇室典範改正法案の今国会提出は、秋篠宮妃紀子の妊娠判明を受け、見送りとなりそうだ。今回の騒動は、「法の下の平等」や「基本的人権の尊重」とは相容れない天皇制の本質を浮かび上がらせた。おぞましい差別体系を無理に維持する必要はない。廃止すればいいではないか。

法案提出は見送り

 現在の皇室典範は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」(第1条)と定めている。この法律が天皇制存続のネックになってきた。すでに中年の域に達した皇太子や弟の秋篠宮に男児はなく、男性皇族が“絶滅”の危機にあるからだ。

 「皇室典範を改正しなければ、天皇制の維持は難しい」(小泉首相)。こうした問題意識から皇室典範改正の動きが始まった。昨年11月には首相の諮問機関(皇室典範に関する有識者会議)が、女性・女系天皇(注)の容認などを柱とする報告書を発表した。

 これに対し、「皇室の伝統に反する女系天皇は認められない」という声が右派文化人や自民党内から続出、閣僚からも皇室典範の性急な改正を疑問視する意見が相次いだ。そして2月7日、秋篠宮妃紀子の妊娠が判明する。慎重論の高まりの中で、皇室典範改正法案の今国会提出を明言していた小泉首相もトーンダウン、法案提出を事実上断念した形となった。

 もっとも、男系男子継承しか認めない現行法のままでは、皇位継承者の不在・不足という事態が常に起こりうる(さすがに側室を復活するというわけにはいかない)。次に誕生する皇族の性別しだいでは、さらに激しい議論が巻き起こるだろう。焦点はもちろん、女性・女系天皇を認めるか否かにある。

「伝統」にこだわる理由

 女性・女系天皇容認派の主張ははっきりしている。「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することは、…世襲という天皇の制度にとって最も基本的な伝統を、将来にわたって安定的に維持するという意義を有するものである」(有識者会議報告書)。小泉首相もこの考えだ。

 一方、反対派は「万世一系の男系を守ってきた歴史と伝統を一内閣の判断で断絶させていいのか」(平沼赳夫元経済産業相)と反論する。なぜ天皇は男系継承でなければならないのか。彼らの言い分をみていこう。

 いわく「初代神武天皇の性染色体Y1は男系男子でなければ継承できない」(八木秀次・高崎経済大学助教授)、「天皇が天皇たるゆえんは、千年を超える伝統にあり、神の血統と霊力にある」(井沢元彦・作家)、「文化文明と呼ばれるものには合理的な説明はつかなくても、長く続いてきたことに価値があるのです」(櫻井よしこ・ジャーナリスト)等々。

 「あほくさ」としか言いようがない主張だが、平沼たちが「万世一系」なる虚構にしがみつくのには理由がある。彼らには、家族の価値観や伝統的共同体の復権をめざすという共通点がある。これによって、新自由主義改革がもたらす国民分裂の危機を取り繕っていかねばならないと言うのである。

 こうした家父長的な家制度を理想とする連中からすれば、「古き良き日本の伝統文化」を体現すべき天皇に女性が即位することなど到底認められるものではない。また、一内閣の判断で皇位継承ルールを改変することは、「歴史の重み」に由来する天皇の値打ちを下げかねない。このことを反対派は危惧しているのだ。

延命ではなく廃止を

 「古代から連綿と受け継がれてきた血筋」という物語が天皇の権威の源泉であることは、女性・女系天皇容認派も承知している。それは、有識者会議が「世襲」を天皇制の最も基本的な伝統と表現していることを見れば明らかだ。

 こうして見ると、女性・女系天皇容認派が進歩的で反対派は復古的という解釈がナンセンスの極みであることがわかる。両者は天皇制の延命という同じ土俵の上で議論しているにすぎない。

 特権的な地位を世襲する天皇制は「法の下に平等」という日本国憲法の精神に反している。また、紀子の「懐妊」騒動に示されるように、女性の役割を「子産み機械」とみなしている点で究極の女性差別といえる。そんな差別体系をなぜ維持しなければならないのか。皇位継承者がいないのなら、天皇制の廃止を射程に入れて議論するのが筋であろう。本紙の立場は当然、天皇制廃止である。

   *  *  *

 「ぶれない姿勢」が売り物の小泉首相が、重要法案と位置づけた法案の提出を一皇族の妊娠で放棄する。妊娠判明の紀子が脚光を浴び、病気療養中の雅子は離婚説すら囁かれる…。「一体、いつの時代だよ」と思ってしまう。天皇制とはやはり今日の人権思想とは相容れない反民主主義的なシステムなのだ。 (M)

(注)女性天皇とは文字通り女性の天皇のこと。女性天皇を母親とする系統の子孫が即位すれば、性別を問わず女系天皇ということになる。

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