ロゴ:国際法を市民の手に 前田朗 2006年03月17日発行927号

『イラク世界民衆法廷(6)』

 2004年3月30日、「イラク公聴会委員会(ヤン・ビルケト-スミス、アンネリーゼ・エッベ、トニ・リヴァーサゲ、スザンヌ・トルベク、クヌート・ヴィルビィ、ティム・ホワイト)」および「デンマーク平和委員会」の主催、「平和基金」、「5月1日基金」、「草の根基金」および50人の個人の協賛によって、コペンハーゲンで公聴会が開催された。デンマーク政府が、イラク戦争に参加し、イラク占領にデンマーク軍を派遣すると決定したためである。公聴会の焦点となったのは次の2点である。

 1)戦争参加についてのデンマーク政府の責任。

 2)イラク占領および政治的経済的道徳的並びに国際法的状況についてのデンマーク政府の責任。

 公聴会は、アンネリーゼ・エッベの総合司会の下に、まずイラク世界民衆法廷とは何かを説明し、続いて証言に入った。最初は、オレ・エスペルソン(コペンハーゲン大学教授)が「イラク戦争と占領のための法的綱領は何か?」として、連合軍の戦争正当化理由を批判した。

 次に、ベンクト-エケ・ルントヴァルとクラウス・ハーゲン・イェンセン(ともにアールボルグ大学教授)が「占領軍によるイラク経済の民営化は国際法に合致するか?」と題して検討した。イラク石油資源などのアメリカ中心の多国籍企業による分割・略奪の法的批判である。

 さらに、スザンヌ・トルベク(文化社会学者)が「占領軍の捕虜や被拘禁者の処遇は国際法や人権に違反するか?」と題して、発覚したばかりの連合軍によるイラク人捕虜に対する虐待・拷問を取り上げて検討した。

 ローン・リントホルト(コペンハーゲン人権研究所研究員)は「イラクにおけるNGOの連合軍による統制」を俎上に乗せた。

 ペーター・ケンプ(コペンハーゲン倫理と法センター教授)は「倫理的パースペクティヴと政治的パースペクティヴ」について分析した。

 質疑討論の後、エスペルソン、イェンセン、ケンプをパネリストとして、討論が行なわれた。デンマーク政府の政策を擁護する発言は一つもなかった。討論は主に次のテーマをめぐって進行した。

 デンマークはイラクから撤退するべきか。

 人道的介入を公認するために国連改革をするべきか。

 限られた影響しかないが、デンマーク政府の責任は何であるのか。

 国際法はこれまでの人道による戦争によっても侵害されたのに、国連により規制されなかったのか。

 イラク再建は、イラク経済の強制的な民営化にとってまさに好都合なメタファーなのか。

 イラク人捕虜や被拘禁者の処遇は、アメリカや連合軍が直面している「困難な状況」によって正当化されるのか。

 イラクの絶望的状況は、アメリカ側に計画やイラクの現実についての理解が欠けていた結果なのか。

 主催者が事前準備で力を入れたのは、イラク戦争の正当化理由としての大量破壊兵器、アル・カイーダとの関係、イラク解放と民主化、国連への非協力といった問題群であったが、連合軍による捕虜虐待が世界を騒がせ始めた時期だったので、議論もここに集中した。アムネスティ・インターナショナルの報告書以外には情報がまだなかったので、この報告書をもとに議論がなされたという。捕虜虐待は単に一部兵士による逸脱ではなく、イラク戦争の性格を反映する事件であることが徐々に明らかになっていく時期である。

 なお、2004年1月にムンバイ(インド)において「アメリカの戦争犯罪を裁く女性世界法廷」がイラク世界民衆法廷の一環として開催されたが、女性法廷については、本連載第62回(本誌876号)参照。

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