2005年2月に放送されたNHKスペシャル『フリーター漂流 / モノ作りの現場で』は、日本の若者が直面する不安定雇用の実態を取り上げ、大きな反響をよんだ。本書は、その取材記録をまとめたルポルタージュである。
内閣府の定義によると、フリーターとは正社員としての職を得ていない15歳から34歳までの若者たちのことを言う(学生・主婦は除く)。その数、5年前で417万人。今や、日本の若者の5人に1人がフリーターと言われている。
フリーターというと、その言葉の響きから「自由で気楽なアルバイト生活」というイメージがつきまとう。しかし現実は違う。番組取材班は、携帯電話の部品などを製造する栃木県の中小企業で働くフリーターたちを長期取材した。そこでカメラが見たものは、「自由で気楽」というイメージとは程遠い過酷な労働実態であった。
山端昭宏さんは21歳、札幌市の出身だ。産業空洞化が進む北海道は若者の失業率が高い。ここ数年、毎年1万人を超える若者たちが請負業者を通じて全国の工場に出稼ぎに出ている。山端さんもその一人だ。
携帯電話の組み立てラインで働く山端さん。ねじ締めやハンダ付けなどの単純作業が一日中続く。携帯電話はモデルチェンジが激しく、すべての工程を機械化していては採算が合わない。だから企業はフリーターを生産変動に合わせて使う。ラインの閉鎖を朝聞かされ、昼には別のラインで働かされることも珍しくない。
今井英雄さん(仮名)は、すぐに職場リーダーに指名されるほどの勤勉な働き手だ。そんな今井さんも正社員のような身分保障はない。時給制のフリーターは休めば休むほど給料が減っていく。病気で一週間休んだ月、今井さんの手取りはわずか7万円であった。結婚したばかりの今井さんは天を仰ぐしかない。
30代になると状況はさらに深刻になる。橋掛輝人さんは家業の運送業が経営困難に陥り転職をめざしたが、彼を採用する企業はなかった。請負会社を通じて流れ着いた工場で橋掛さんは慣れない手作業に奮闘する。
だが、将来の展望が見出せない仕事に見切りをつけ、橋掛さんは故郷に帰っていく。そんな彼を父親は「我慢して働くことが大事だ」と叱責する。昔気質の父親に明日なきフリーターの現実が伝わらないことが橋掛さんはもどかしい。
本書は、NHKの番組という制約からか、ストレートな企業批判の言葉は出てこない。しかしフリーター問題の第一義的責任が、正社員を減らす一方、フリーターを安価で交換可能な労働力として使い捨てにする企業にあることは明白だ。
「いま、欲しいものはモノじゃない。将来の安心が欲しい」。本書は格差社会の底辺をさまよう若者の肉声を伝えている。 (O)