2006年04月14日発行931号

インタビュー 「戦争と暴力に反対する親と子」代表 ポール・ガランさん

【対テロ戦争が貧困をもたらす / 「戦争ではなく、社会福祉を」】

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 フィリピン・アロヨ政権は、不正選挙などに対する大衆的な抗議行動を非常事態宣言で鎮静化させた。だが、民衆の怒りはおさまらない。AKAY支援コンサートに来日したMAPALAD−KA(マパラドカ=戦争と暴力に反対する親と子)代表ポール・ガランさんにフィリピンの現状とマパラドカ運動の意義について聞いた。(まとめは編集部)


左派勢力への弾圧

◆非常事態宣言を発したアロヨ政権の狙いは。

 アロヨ政権は、マルコス独裁政権(1986年に崩壊)以来はじめて、20年ぶりに非常事態宣言を出した。アロヨ政権は米国の傀儡(かいらい)政権であり、対テロ戦争の強力な支援者だ。同時に極めて腐敗疑惑の多い政権でもある。大統領選挙では不正が行われ、民衆をだました。これに対し民衆の怒りが爆発したのだが、アロヨ政権は、宣言1017号(非常事態宣言)で応えたわけだ。

 非常事態宣言の狙いは、政権にしがみつくことであり、もう一つはフィリピンにおける米国の権益を守ろうとすることである。

◆非常事態宣言の下で起こったことは何か。

 進歩的な国会議員の逮捕やメディアの弾圧などは日本でも報じられたが、この非常事態宣言のもとで行われたのは反米運動に対する弾圧だった。例えば、大衆団体のバヤンや左派政党バヤン・ムナ。米国の政策に反対する強力な運動団体・政党だが、はげしい弾圧を受けた。米国は、共産党などを含めこれら左派勢力を「反乱分子」だとアロヨに宣言させたわけだ。

 3月3日、非常事態宣言を解除したが、それは経済的な停滞が懸念されたためにすぎず、実質的には事態は継続している。左派リーダーに対する逮捕・拘束は続いている。

 2007年、地方選挙が行われる。アロヨはその前に憲法の改悪を狙っている。フィリピンの選挙制度には、比例代表制が取り入れられているが、このまま選挙を行えば、バヤン・ムナなどの民衆政党が前進することは目に見えている。これを恐れたアロヨ政権は与党に有利な選挙制度に変えようと狙ってさえいる。

子どもも一緒にデモ

◆日本では「ピープルパワー疲れ」と否定的な報道だっ た。フィリピン民衆はどう 見ているのか。

 そうした見方は間違いだ。

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母親と子どもたちによるマパラドカのデモ(3月5日)

 民衆は、ピープルズパワーモニュメントに集まろうとしていた。ところが、アロヨ政権は街のいたるところに警官を配置し、機関銃で脅し、警棒をふるって民衆を追い返した。しかも、政府を批判する者は逮捕、政府批判をする報道機関は閉鎖すると公言した。民衆に対してテロと言ってよい行為を繰り返し、民衆を威嚇し、抗議行動の拡大を阻止しようとしたのだ。

 もう一つの要因に、あまりに民衆の貧困が進んでいることがある。人々はアロヨ政権を支持していないのだが、抗議行動に参加する時間も惜しんで生活のために働かなければならない状態にある。

 いまやフィリピンでは、一部の政権取り巻きを除いて誰一人としてアロヨを信用する者はいない。

◆マパラドカ運動の意義は。

 地域の平和運動として、マパラドカに取り組んでいる。3月5日、子どもたちも一緒にデモを行い、成功した。地域での行動だから、子どもたちが参加しても危険ではない。主要な道路であればあちこちに警察官が立っており、集会やデモに対して妨害を加えてくるのだが。

 マパラドカ運動は、アロヨ政権打倒という直接的な表現はしていない。

 アロヨ政権は軍事費に莫大な予算を割いているが、人々は戦争ではなく、社会福祉・社会保障を求めている。地域の親たちに、子どもたちを暴力から守り、教育を受ける子どもたちの権利を守るために、行動しようと呼びかけている。

 3・5行動を成功させるための会議を持った。その場で、アロヨ政権がどこに予算を費やしているのかを説明した。第1は債務返済、第2は軍事費、そして第3番目に社会サービスの順だ。しかも社会サービスの予算がまわされるのは、士官学校であり、軍病院であったりする。

 AKCDF(アバカダカユマンギ地域発展基金)は、”どの子も自分の子”という哲学を広げるために活動している。子どもたちは、米国に支配されている政権の犠牲者だと訴えている。イラクの子どももそうだ。フィリピン政府に軍事費に予算を使わせないようにすることが、イラクの子どもたちのためにもなると話している。

◆平和会議の開催が計画され ているようですが。

恒例となったAKAY支援コンサート(3月21日)
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 2007年4月ピース・カンファレンスを開催する。

 第1の目的は、NGOや民衆団体を組織して、軍事化やグローバル資本主義と対決する政策を定めることだ。NGOや民衆団体を支援・組織することはとても重要だ。これらの組織は地域で活動しており、地域のことをよく知っているし、人々と結びついているからだ。

来年4月に平和会議

 政治運動・政治組織の参加も重要だ。政治課題を明確にして、政治や経済の仕組みを変革していく展望をしめすことが必要だ。国外からの参加者も迎え、どの国においても民衆の金がどれほど軍事的な分野に費やされているのかを明らかにしていきたい。

 会議は、市民や子どもたちの基本的人権を擁護するために決議をあげることを重要な目的としている。「戦争ではなく、社会福祉を」というスローガンは誰しも受け入れられるものだ。

 もしイラクからの参加が得られれば、どんな事態が進行し、どれほどの犠牲が出ているのか、明らかにできる。イラク子ども保護センターが取り組んでいる、子どもに教育の保障というのは、フィリピンとまったく同じ課題だ。戦争によって生活が破壊されているし、両親をなくした子どもやストリートチルドレンがたくさん生まれていることを写真で見た。コンサートなどで得た収益を分かち合いたいと思っている。

 文化活動家にも広く参加を呼びかけている。国際連帯の芸術活動を通じて、子どもの人権を守り、子どもたちが安全で平和な世界で生きていけるようにしたいと思っている。

 占領終結、そしてイラクだけでなくあらゆる国に対する米国の侵略を直ちにやめろと声を上げたい。

◆日本のAKAYや支援者へ のアピールを。

 いま、AKAYコンサートに取り組んでいるが、今後はピース・フェスティバルに発展させられないかと考えている。歌や音楽だけでなく、例えば、フェア・トレードなどが出れば、搾取のないもう一つの世界が可能なのだと示すこともできる。

 来年のコンサートは、チャリティーだけでなく連帯コンサートとしていけないか。日本とフィリピンの連帯を通して、世界中の子どもたちに手をさしのべていきたい。これこそが本当の連帯だろう。

◆ありがとうございました。

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