2006年07月07日発行943号

【首切り自由の労働契約法制 労働者保護の全面解体】

 厚生労働省は6月13日、労働政策審議会の分科会に「労働契約法」と労働時間法制の見直しに向けた素案を示した。これはグローバル資本による究極の労働者搾取と抑圧のための案である。同省は7月に中間報告、今秋までに最終報告をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出しようとしている。

サービス残業を制度化

 素案では、労働時間法制について「自律的労働制度」の創設を打ち出した。一言でいうと、企業は事務技術系労働者(労働時間や仕事内容に一定の自己裁量性がある)が何時間残業しようと残業代を支払わなくていいように労働基準法を改悪しようというものだ。時間外割増賃金を支払わないだけでなく、どれほど深夜まで働いても労働時間規制を除外されているのだから、企業の責任が問われることはなくなってしまう。

 モデルとなったアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」は、賃金要件の他に2人以上の部下を持っていること、採用・解雇権限を持つ管理職といった要件がある。ところが、素案では、労働者の地位、権限、責任、部下人数とは無関係に適用する内容となっている。

 制度の適用要件「一定水準以上の額の年収」は具体的には示されていないが、日本経団連は400万円以上(日本の労働者平均年収は440万円)を提示している。月収30万円の労働者が週60時間働いているとすると、この制度の適用対象となった途端に年間時間外労働賃金にみあう240万円を失うことになる。

若者とともに雇用確保と権利確立を
写真:

 グローバル資本はこの間、長時間労働とサービス残業をとてつもなく深刻なものにしてきた。30歳代労働者の4人に1人が週60時間以上労働というのが実態だ。ここ数年、労働基準監督署への違法残業の告発が大幅に増え続けている。厚生労働省も「サービス残業根絶」通達(01年)や指針を発表せざるをえず、摘発に乗り出した。その結果、トヨタ系列の部品メーカーアイシン精機が、未払い残業代を5億7600万円も後払いするなど、01年の通達後4年余で計605億円を超える巨額の後払いが行われた。

 これに腹をたてたのが日本経団連の前会長企業トヨタのある愛知県経営者協会だ。04年3月に愛知労働局に「労働時間の把握は労使にまかせよ」という要望書を提出した。その後、日本経団連が05年版「経営労働政策委員会報告」で「最近の労働行政は、企業の労使自治や企業の国際競争力の強化を阻害しかねないような動きが顕著」と非難したところから、厚生労働省の法案づくりが始まったのである。

フリーハンドで解雇

 今回の「労働契約法」素案は、05年9月「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告」(最終報告)に沿ったものだ。資本の本音がよりストレートに表明された同報告を参照しながら見てみよう。

 「最終報告」では、まず「経済のグローバル化や情報技術革命の中で企業間競争が激化しており、企業としては、従前にもまして速やかに適応しなければ企業の存続自体が危ぶまれる場合も生じてきている」と述べる。

 グローバル資本主義は、個々の労働者に対する個別処遇制度や成果主義賃金導入を通じてまわりの同僚をみな敵とみなすような職場環境を作り出してきた。しかし、正規雇用労働者の解雇がこれまで整理解雇か懲戒解雇に限定されてきたことを完全に否定・解体するまでには至っていない。

 労働契約法は、「普通解雇」(勤務成績不良等での解雇)を常態化させ、その紛争について金銭解決制度により解決すること(=カネさえ払えば首切り自由)を主眼としている。この金銭解決制度については多くの批判が集中し、素案では一定の検討事項をあげざるをえなかった。だが、グローバル資本の基本的な狙いは、労働者の労働能力に満足できなければ直ちに解雇することにフリーハンドを与え、「終身雇用制」の完全解体に踏み込もうというものだ。

徹底した労働者抑圧

 労働契約法は、契約の成立から終了に至るまで徹底した労働者攻撃で満ちている。

解雇自由契約の導入

 「最終報告」は、「試用を目的とする有期労働契約(試行雇用契約)は、企業が労働者の適性や業務遂行能力を見極めた上で本採用とするかどうかを決定することができる」としている。これは現行の正規採用方式を「試行雇用契約」へ変更せよという資本への示唆であり、就職2年以内の若者を解雇自由としたフランスのCPE(初期雇用契約)法案と同じものだ。素案では、試用期間中の解雇要件や解雇予告を厳しくしているものの、その狙いは変わらない。

一方的労働条件変更

 素案では「労働契約の変更の必要が生じた場合には、使用者が労働者に対して、一定の手続にのっとって労働契約の変更を申し込んで協議する」として、使用者による一方的労働条件変更制度を盛り込んだ。契約遵守は近代法の大原則であり、これを根底から覆そうとしているのである。

解雇4要件の否定

 解雇の原因が使用者側にある整理解雇にあたっては、整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者選定の合理性、解雇手続きの妥当性)がすべて満たされなければならないとされてきた。しかし、近年これらすべての要件を満たさない場合でも整理解雇を認める下級審判決が出されている。

 素案は4要件を「4要素」と書き換え、「総合的に考慮」するということで反動判決を容認し整理解雇を容易にしている。

労使委員会で首切り

 労働契約法において、就業規則やその変更の正当性を保証するものは労使合意だ。素案の「労働者代表」や「労使委員会制度」は、「労使自治」を名目にした資本の専制支配を可能にする。

 本来、労働力の販売契約権を持つのは労働者自身であり、労働組合はこうした労働者が自発的に結社し労働条件向上を目指したものである。労働者個々人が委嘱してもいない労働者代表や労使委員会が個々の労働者の権利を独占することは許されない。

 さらに「最終報告」は「労使委員会の活用の仕方としては、…配置転換、出向、解雇等の権利濫用の判断において考慮要素となり得る」とし、配転、出向、解雇など労働者の死活問題についても労使委員会で「正当」と認められれば資本の意のままにできる保証を与えている。

*************

 グローバル資本の意図は、労働時間をはじめ採用から解雇に至る労働のあらゆる分野で法による規制を全面解除し、資本の基準に労働者を全面的に従わせることにある。

 攻撃の最大の被害者は若者や学生だ。就職段階から派遣労働者として正規職の狭き門を目指して競争させられ、仮に就職できても無制限の労働時間と残業代不払い。あげくの果てには解雇自由が待ち受ける。こんなデタラメをまかり通らせてはならない。

 グローバル資本の横暴を許さず、若者を先頭に労働法改悪阻止の闘いに立ち上がろう。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS