2006年10月27日発行958号

【制裁・臨検は戦争への道 朝鮮は核開発停止を】

 10月9日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)は全世界の反対世論を無視して核実験を強行した。これに対して米・日の好戦勢力は、軍事行動をともなう制裁を先導した。朝鮮の核実験は、世界の核軍縮への努力を後退させる暴挙である。一方、軍事力を振りかざした制裁も、何の解決ももたらさないばかりか、実際戦争を引き起こすことを狙った危険な行為だ。解決への道は、6か国協議の再開と米朝・日朝の個別協議実施など、対話と平和的交渉の積み重ねによる信頼醸成しかない。


核廃絶阻害する暴挙

 朝鮮は、10月9日、核実験を成功させたと発表した。

 今回の核実験は、南北朝鮮合意の朝鮮半島非核化宣言(91年)、日朝ピョンヤン宣言(02年)、6か国協議共同声明(05年)に背を向けるものだ。また、包括的核実験禁止条約(CTBT・未発効)、中央アジア非核地帯条約(06年9月)など核実験禁止・核兵器廃絶への歩みを後退させる行為だ。

 朝鮮がどう言いつくろおうと、許されるものではない。2度と核実験を行わず、あらゆる核開発計画を直ちに廃棄すべきだ。

安保理決議は戦争挑発

 朝鮮の核実験を受けて、日米政府は直ちに国連安全保障理事会(安保理)での制裁決議採択へ奔走し始めた。

 核実験実施発表の当日、日米両国の国連大使はただちに「国連憲章第7章」に基づく制裁決議案採択へと動き、英・仏も同調した。

 第7章は、安全保障理事会が「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為の存在を決定し」(第39条)、その上で必要な勧告または兵力をともなわない措置を(第41条)、次に、陸軍・空軍・海軍による行動を(第42条)とることができると定める。(資料参照)

 10月14日、安保理は朝鮮を対象としたこの憲章7章に基づく制裁決議を全会一致で採択。朝鮮の国連大使は「米国がさらに圧力をかけるなら宣戦布告とみなし物理的な対抗措置をとり続ける」と席をけった。

 「7章」による制裁措置は、米国と日本をはじめとする武力行使への可能性を開く。第41条に基づく」との記述は、軍事的制裁の排除を意味しない。第41条の制裁措置の実施は、第42条による武力行使へと移行するための条件整備であるからだ。

 制裁決議の内容には、●通常兵器・大量破壊兵器・ぜいたく品の供給、売却移転の阻止 ●臨検などがふくまれている(骨子別掲)。

 臨検とは、公海上での船舶への立ち入り検査を指すが、実際には軍事行動そのものだ。

 停船を拒否する船舶は、艦首への砲撃で威嚇して停船させる。軍用輸送ヘリに乗り込んだ武装特殊部隊員などが甲板へと降下。上空では戦闘航空機が待機し、いつでも攻撃・撃沈できる体制で威嚇し続ける。これは決して絵空事ではない。米軍と自衛隊が過去実際に実施した演習の様子だ。

 10年前に行われ自衛隊も参加した環太平洋合同演習では、強襲揚陸艦3隻、ハリアー攻撃機2機、大型輸送ヘリ4機で作戦行動した。

 まさに、大掛かりな軍事行動であり、戦争挑発そのものだ。

 また、決議は、朝鮮の対応に進展がないと判断すれば追加措置を講ずることを決定した。これは、際限のない経済制裁の拡大を招く。

 経済制裁は、対象とする政権よりもむしろ民衆に犠牲をもたらす非人道的行為だ。

 湾岸戦争後のイラクでは、長期間にわたって経済制裁が実施された。「生物・化学兵器開発につながる」として、薬品類も輸入制限され、医薬品不足で子どもを中心に多くの死者を出した。その数は数十万人から100万人以上ともいわれる。

 国連安保理決議は戦争に道を開く危険なものだ。

突出する安倍内閣

 この国連制裁決議を先導したのは、議長国であった日本政府―安倍内閣だ。

 朝鮮の核実験発表後すぐさま麻生外相が新たな独自制裁措置を検討すると表明した(10/9 ロイター)。また、与党自民党・中川政調会長も同日、独自制裁措置として「海上での臨検」まであげた。

 2日後の10月11日には、安倍自らが「核兵器を開発すれば、国自体の生存条件も厳しい状況になる」と明言。13日には●朝鮮国籍の人の入国を禁止●朝鮮船籍の船の全面入港禁止●朝鮮からの全面輸入禁止を追加制裁措置として決定。あわせて「今後の北朝鮮の対応・国際社会の動向等を考慮しつつ、更なる対応について検討する」とした。この「新たな措置」として検討されているのは、金融制裁措置だ。

 入港禁止措置によって、在日朝鮮人や支援者による支援物資は途絶えることになる。全面輸入禁止措置は年間145億円ともいわれる農産物・魚介類・石炭などを生業としている人びとの生活を苦しめる。その上、金融制裁措置まで実施されれば、朝鮮本国への送金すらできなくなる。犠牲となるのは民衆であることは間違いない。

 さらに、安倍は核実験を「周辺事態」と認定することで米海軍とともに「臨検」に乗り出そうとしている。米軍への給油のみならず、海上自衛隊自らが公海上で「臨検」を実施することの検討を始め、特別立法まで画策している。

 これには、「臨検は交戦権の行使につながりかねない」(公明党・東順治副代表)、「臨検の実行段階になれば、北朝鮮は宣戦布告とみなすだろう。暴発を招来する」(自民党・山崎拓安保調査会長)など、与党の中からさえ反対の声が上がる(10/12朝日)。

 臨検の実態は、武力による威嚇、武力行使と不可分の軍事行動であり、憲法違反は明白だ。

 自民党内からは、またもや核武装論が浮上した。中川政調会長は10月15日のテレビ番組で「(日本の)憲法でも核保有は禁止されていない。核があることによって(他国に)攻められる可能性が低くなる。あるいは、やれば、やりかえす、という論理は当然あり得る。議論は当然あっていい」との暴言を吐いた(10/15読売)。

 安倍は、朝鮮の暴走を最大限に利用し、戦争国家づくりを急速に推し進めようとしている。

  *   *   *

 朝鮮の核開発問題は、米クリントン政権の時代に日韓による軽水炉の建設と米国による火力発電所向け重油供給でいったん決着を見ていた。

 その後、ブッシュ政権が約束を事実上破棄。米朝2国間協議を拒否し続けた。キム・ジョンイル政権は「核開発」への挑発的行動で対抗していく。6か国協議共同声明以降も、日本が拉致問題を優先させ、米国が金融制裁や軍事演習を拡大するなど、朝鮮を追い詰めていった。

 そして、「核開発」という朝鮮の戦争挑発に、「圧力」「制裁」という同じく戦争挑発で対抗することで、際限なく緊張を高めてきたのである。

 問題の解決は、6か国協議の再開はもちろん、日朝国交正常化交渉、米朝2国間協議などを実現し、平和的解決を求める世界の民衆の声を背景に信頼醸成への平和的外交を積み重ねるしかないのだ。

国連憲章第7章(抜粋)

第41条 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第42条 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

国連安保理制裁決議(骨子)

●朝鮮の核実験発表にもっとも重大な懸念を表明

●国連憲章第7章の下に行動し、同章41条に基づく措置をとる

●朝鮮への戦車などの通常兵器、各・弾道ミサイル・その他の大量破壊兵器関連物資、ぜいたく品の供給、売却、移転の阻止

●朝鮮に出入りする貨物の臨検を含む協調行動

●必要なら追加的措置

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