2006年11月03日発行959号

【「あぶない国へ」安倍戦争推進内閣 「再チャレンジ」のウソで格差は加速】

 安倍首相は、小泉改革がもたらした格差拡大・固定化への批判に対し「再チャレンジ」というキャッチフレーズを掲げた。「そのためにも経済成長を」とごまかし、グローバル資本のむき出しの要求を代弁し、社会保障をはじめとする国家の責任をことごとく放棄する。安倍の悪質さがここにある。


官邸に乗り込むグローバル資本

 安倍の「経済成長戦略」を示す場が、小泉が作った首相の諮問機関・経済財政諮問会議(首相他閣僚5人、民間議員4人、日銀総裁)である。

 4人の民間議員には、グローバル資本の代表である御手洗富士夫(日本経団連会長)、丹羽宇一郎(伊藤忠商事会長)、ブレーンを務める八代尚弘(国際基督教大教授)、伊藤隆俊(東大大学院教授)が選ばれた。同じく安倍が選んだ「成長重視派」の金融・財政・経済関係閣僚とこのグローバル資本代表・ブレーン学者が官邸で堂々と談合を行なうのである。

御手洗 冨士雄(みたらい・ふじお)1935年生まれ 71歳。1961年中大法卒。キャノン株式会社代表取締役会長。2006年5月から日本経団連会長。大分県出身。

略歴
丹羽 宇一郎(にわ・ういちろう)1939年生まれ 67歳。1962年名大法卒。伊藤忠商事株式会社取締役会長。愛知県出身。

略歴
伊藤 隆敏 (いとう・たかとし)1950年生まれ 55歳。1979年ハーバード大院修了。東京大学大学院経済学研究科(兼)公共政策大学院教授。北海道出身。

略歴
八代 尚宏 (やしろ・なおひろ)1946年生まれ 81歳。1981年メリーランド大院修了。国際基督教大学教養学部教授。大阪府出身。

略歴

 10月13日、安倍政権の下で初めての会議が開かれ、御手洗経団連会長など4民間議員は、グローバル資本の要求を臆面もなく出し、日本の未来がそこにかかっていると豪語した。「経済成長の要は企業の国際競争力の強化。それを阻害しているのが高すぎる法人課税、企業が使いにくい雇用制度、民間企業の参入を阻む様々な法規制」というのである。

 そして法人税の大幅減税や労働法制の改悪、「規制緩和」を論議課題とすることを決定した。   

法人税減税のため国民へ大増税

 安倍と経済財政諮問会議は何を狙っているのか。 

 第1は、小泉時代を上回る法人税減税・大衆課税強化だ。伊藤忠の丹羽は「実効税率の引き下げなどで政府が企業の背中を押すことだ」と言い切る。小泉時代(02〜06年度)に法人課税は1・4兆円減税され、個人所得税は3・9兆円の大増税となった。丹羽はいっそうの法人税減税の財源を「今までの改革で得た税収増の一部を充てればいい」という。つまり、小泉以上に勤労者・高齢者課税を強化して、法人税減税財源を捻出せよというのである。

 第2に、正規雇用労働者の労働条件を破壊することで賃金を徹底して切り下げ、労働時間の規制まで解体する。

 「ワーキング・プア」(働く貧困層)との言葉が広がり、パートや派遣労働者の低賃金が社会問題化する中で、グローバル資本が示した対応は正社員側の労働条件を切り下げることであった。

 年収400万円以上の労働者を8時間労働制、週40時間労働制から適用除外する「ホワイトカラー・エクゼンプション」を導入しようとしている。どれだけ働かそうが残業代や割増賃金を払わなくてもよいとする労働法制の改悪=労働時間規制の解体に踏み込んでいくのだ。

 第3が規制緩和の徹底だ。八代教授は「新しいビジネスの発展を妨げている規制が無数にある」として、社会保障や教育など公的部門についての規制は解体すべきと主張している。

 小泉が強行した医療制度改悪の結果、先端技術の民間医療を享受できる富裕層と自己負担に耐え切れず医療そのものから排除される貧困層への分裂・格差拡大が浮かび上がっている。安倍は教育をはじめあらゆる分野に規制解体を徹底する。グローバル資本が「効率性がない」と決め付けた公的医療や公的保育・公教育は予算を剥奪される。国民の教育権や医療・福祉の権利は否定され、そこで浮かせた金は軍拡へと回される。

中身の全くない「再チャレンジ」

 安倍の「再チャレンジ」という言葉に中身はない。せいぜい「フリーターの削減目標」を唱えているだけだ。

 経済財政諮問会議に乗り込んだメンバー、彼らの言動から見れば「再チャレンジ」の機会など作ろうとするはずもない。

 御手洗経団連会長はキャノン出身。派遣労働者を雇いながら「業務請負」と偽装してきた企業のトップだ。そこには、派遣労働者を使い捨て自由な格安の労働力としていつでも首を切れる状態を維持することが企業の利益という視点が貫かれている。

 「フリーター削減」にしても、日本経団連傘下560社のアンケートでフリーター経験者を「積極的に採用する」と回答したのは1・6%でしかない。

 安倍の悪質さは、この「再チャレンジ」という言葉を経済成長や規制緩和への同意の取り付けに利用し、いっそう格差を広げ、固定化することだ。そして、「自己責任論」を広げることで、雇用や医療・福祉・教育などの国家責任を一切回避し、財源をグローバル資本の戦争のために使おうとしているのである。

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