2007年02月02日発行971号

【日本経団連新ビジョン『希望の国、日本』 新憲法と恒常的派兵を要求 国民には「絶望の国」】

 1月1日、日本経済団体連合会は、今後10年のビジョンとして「希望の国、日本」(以下、新ビジョン)を発表した。新ビジョンは、グローバル資本の権益確保のための構造改革・全面的国家改造を進めることを安倍に求めた。とりわけ、「今後5年間に重点的に講じるべき方策」では「労働市場改革」「行財政・社会保障制度・税制改革」「教育再生、公徳心の涵養(かんよう)」など、国民生活に直結する改革が網羅されている。

生活・教育を破壊

 「行財政改革」は、一層の歳出削減を求め、「社会保障、地方財政、公務員人件費について聖域なく見直す」としている。その上で「国民一人一人が『自立・自助』の精神に立ち、公的社会保障制度は、経済の身の丈に合わせて、中長期的に持続可能なものとしていく」ことを求めている。

 このうち、年金については、資産・所得のある高齢者の基礎年金の年金額の逓減(ていげん)・公費部分の支給停止や、保険料納付期間の延長など負担増と給付削減を図っている。医療については、一定金額以下の医療費を保険適用から除外する「免責制」、「個人の選択の尊重」を名分にした終末期医療の切り捨て、混合診療の全面解禁、競争力強化に向けた規制改革を進める など医療への公的責任の放棄と格差拡大を狙う。

 介護保険については、「自己負担の適正化」や「自立支援」という名で公的介護からの排除をたくらんでいる。

 国民生活関連の切り捨てと合わせて、企業の負担は減らせと要求している。

 長期的には「消費税率引き上げもやむなし」とした上で、法人税率の切り下げや償却資産に関わる固定資産税の廃止など、企業・高額所得者を優遇した税制を求めている。

 教育については、全国学力・学習調査結果の公表、学校選択制の拡大など公教育への競争原理の導入を推進する。あわせて、「愛国心教育・公徳心の涵養」を通じて、「公」=国家・企業に逆らわない労働者・国民作りを狙っている。ナショナリズムの高揚へ企業での「日の丸・君が代」も打ち出している。

労働者を「使い捨て」

 雇用分野では、不安定雇用の増大を求めている。

 労働者派遣や請負労働の規制改革=「自由化」、有期雇用契約の拡大、裁量労働制、ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ制度)の推進をあげる。

 あわせて、雇用の入り口である採用については、「若年者が就労能力を高めることができる環境を整備する」としている。具体的には、「トライアル(試用)雇用、インターンシップ(就学中の試用労働)の機会を積極的に提供すると共に、若年者や教育機関に対して求める人材像を的確に伝える」としている。

 総人件費抑制を徹底する企業は、手間と費用がかかる企業内職業訓練で労働者を育てるのではなく、即戦力を求めている。教育機関や公共職業訓練にその肩代わりをさせ、あるいは、トライアル雇用などの名分で能力を測り労働者をつまみ食いしようというのだ。

 加えて、看護・介護労働の外国人労働者の受け入れも打ち出した。今後、需要が増大する看護・介護の分野での総人件費抑制・低賃金労働の固定化を狙ったものだ。

 労働者の「使い捨て」はますます横行することとなる。

すべてを権益のために

 「新ビジョン」の大きな特徴は、財界総本山として新憲法制定を公然と要求したことにある。「戦力不保持を謳(うた)った第9条第2項を見直し、憲法上、自衛隊の保持を明確化する」とし、「国益確保や国際平和の安定のために集団的自衛権を行使できることを明らかにする」としている。

 「国益」とはグローバル資本の権益であり、「国際平和の安定」とは日本の「国益」の妨げになる勢力の排除に他ならない。イラク戦争と同じような先制攻撃・占領を集団的自衛権行使として正当化することが狙いだ。あらゆる国民生活の切り捨ては、この軍事力確保―海外派兵に国家予算をつぎ込むためだ。

 日本経団連の「希望の国・日本」は、安倍が掲げる「美しい国」とそっくりだ。安倍の「美しい国」は、経団連が代表するグローバル資本の要求をそのまま焼きなおしたものであり、そのための国家改造を国民投票法制定から新憲法制定で実現しようとしている。

 権益確保を目的にいつでもどこにでも派兵する。そのために新憲法制定に踏み出し国民生活を切り捨てる―1月25日開会の通常国会は、この「新ビジョン」を代弁する安倍内閣と全面対決する場となる。

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