中国から岐阜市の縫製工場に「技術研修」に来ていた6人の女性労働者が、2006年春、絶望のうちに帰国した。彼女らが来日したのは、03年1月。翌朝からすぐ、仕事に就いた。6時始業、8時半から午後3時までは日本語学習、その後再び仕事に就き、夕食30分を除き夜の9時まで続く。仕事はミシン踏みとアイロンがけ。宿舎は暖房設備もない小屋だった。
さらに問題なのは報酬額。1年目の研修期間、基本給4万5千円、残業代は時間250円。2年目、実習生となり基本給5万円、残業代は時間300円。3年目、基本給5万5千円、残業代は300円のまま。
「日本の先進技術の習得」「日本人と同じ賃金」‐勧誘時の言葉はうそだった。労働組合に加入し、会社との交渉の末やっと規定賃金の支払いを約束させた。
本書には、これに類似した例が他に7つと68枚の相談カードが紹介されている。「殴るのは教育だ」と言い放つ経営者。パスポートを取り上げ、強制貯金をさせ逃亡を防ぎ、携帯電話の所持禁止、外泊禁止と外部との接触を許さない監禁状態におく経営者。多額の保証金を前納させ、管理費と称し賃金をピンはねする斡旋業者。
これらの事例は、現代の人身売買、あるいはかつての強制連行を想起させる。
来日する外国人研修生は04年で年間7万5千人。10年間で2倍となった。自由を奪われ、低賃金で酷使される外国人労働者の問題は改善されるどころか、手口は巧妙化し、事態は一層深刻になっている。本書はこの構造を暴いている。
外国人研修生の受け入れ先を産業・業種別に見れば、衣類・繊維製品製造業が27・6%と最も多い。ある縫製工場の経営者は「時給300円以上を実習生に払ったら、この業界は崩壊する」と語っている。
安価な労働者を求めて生産拠点を海外に移す大企業。それを裏返したように、安価な労働者をおびき寄せ酷使する中小零細企業。「弱者が弱者を生み出す構造」が見て取れる。
日本の大企業は史上最高の利益を上げ続けている。それは下請け企業に極端な低価格を強要した結果でもある。下請け企業は生き残るために、さらにその下請け企業にコストダウンを強要する。結局、最底辺で働く労働者が犠牲を引き受けている。
外国人研修制度は、89年「研修」名目の在留資格が創設されて以降本格化し、経済界の要請によりその後数々の規制緩和が行われてきた。現在のところその数は、日本の労働人口の0・1%程度である。だが、わずかな例外と見過ごすわけにはいかない。それは、人権も労働基準も破壊し、最底辺の労働者を搾りあげ、史上空前の景気に酔いしれるグローバル資本主義の典型的な構造を示しているからだ。 (T)