2020年01月17日 1608号

【弾劾大統領トランプの罪/権力乱用 議会軽視 そして開戦行為/審判下すのは米国市民の闘い】

 トランプ米大統領が弾劾裁判にかけられる。「権力乱用」と「議会軽視」が訴追理由だ。有罪となれば罷免される。評決する連邦議会上院は与党が多数派のため有罪の可能性はほとんどないが、史上3人目の「弾劾大統領」という不名誉な烙印を押されたことは間違いない。トランプの罪は山ほどある。その審判を下すのは議会ではなく、市民の闘いだ。

弾劾も選挙戦術?

 弾劾は合衆国憲法第2章第4条の定めによる。「大統領、副大統領及び合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他の重罪及び軽犯罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場合はその職を免ぜられる」

 下院はすでに19年12月18日、弾劾訴追を可決したが、上院での弾劾裁判の日程は決まっていない。ペロシ議長(民主党)が上院に訴追状を送っていないからだ。

 有罪には上院議員の3分の2の賛成が必要だが、それには共和党から20人以上の「造反」がいる。民主党は結着をつけず疑惑をかけたまま長引かせたい。2人目の弾劾大統領クリントンの時、「無罪」後、支持率が上がったからだ。

 トランプがそうなるとは限らない。弾劾訴追によってもトランプ支持率は変化しなかった(12/31ラスムセン社調査)。逆に言えば、トランプ擁護は固い支持層に限られているということだ。

ウクライナ疑惑

 トランプはどんな罪を犯したのか。下院情報委員会の調査によれば、19年7月、民主党の有力大統領候補バイデンの不利な情報を得ようと、ウクライナの大統領に軍事支援と引き換えに捜査を要求した。これが「権力乱用」の罪に問われた。このウクライナ疑惑調査のため下院が出した召喚状をトランプは証人や政府機関に無視するよう指示した。これが「議会軽視」の罪。

 選挙スタッフがらみのロシア疑惑と違い、今回のウクライナ疑惑は本人の直接関与を示す証拠があがった。「バイデン氏が捜査をやめさせたなど、いろいろなことが言われており、多くの人が知りたがっている」―公開された電話記録の一部だ。「普通の会話だ」とトランプは居直るが、あえて話題にした意図は明白だ。

 トランプは就任当初から女性蔑視、排外主義などの差別発言を連発し、シリア爆撃を実行した。ウクライナ疑惑で有罪とならなくても、市民にとって問うべき罪はいくらでもある。

命をもてあそぶな

 例えば格差拡大の罪だ。世界一医療費が高い米国では、人口の4割超が医療債務を抱え、医者にかかるのを控えているという(月刊誌『選択』1月号)。未回収医療債権はパッケージにして売買され、安く購入した取り立て業者が額面通りの額を取り立てるビジネスになっている。

 民主党の有力大統領候補バーニー・サンダース上院議員の演説会場で医療費を払えない男性が「自殺する以外道はない」と訴えた。実際医療債務をかえる高齢者の自殺が近年目立つという。

 トランプは強がってはいるが、大統領選挙を勝ち抜く「成果」はほとんどない。ビッグディール(大取引)をアピールしたかった米朝交渉も後戻りした。「強い大統領」を演出する対イラン挑発は、ドローンによる司令官爆殺に踏み込んでしまった。「戦争の危機」をつくり出さねばならないほど焦っている。

 国家を私物化するトランプ。グローバル資本優遇減税や軍事費拡大の一方で社会保障費の削減―1%のための新自由主義政策、憲法も無視する開戦行為こそ弾劾に値する罪だ。

 サンダースは無数の命と多額の戦費を費やす「新たな戦争への道」を突き進むトランプを全力で止めると語った(1/3 英紙モーニングスター)。彼を支援するアメリカ民主主義的社会主義者(DSA)は政党間の駆け引きになっている弾劾裁判の限界を指摘したうえで、労働組合運動の再生と環境運動団体との連帯の中に、トランプ追放、20年大統領選挙勝利の展望を見出している(12/10 全国事務局長声明)。

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