2020年01月17日 1608号

【英国総選挙 残念なコービン労働党敗北とその教訓 問われたEU新自由主義克服の訴え 国際連帯と社会主義こそ必要】

 2019年12月12日の英国総選挙は、「EUからの離脱をやり遂げる」を前面に出した保守党が大勝し、社会主義的な政策を掲げた労働党が大敗するという、世界の左翼勢力にとって実に残念な結果に終わった。それは、重要な教訓を示してもいる。

 選挙の結果、ジョンソン首相の率いる保守党が、改選前より47議席を増やし、下院での過半数を39議席も上回る365議席を獲得した(図1)。これによりジョンソン政権は、保守党単独でも離脱協定案を議会で通過させることができる。

 他方、左派のコービン党首が率いる労働党は、選挙のマニフェストで「ブレグジットだけが選挙の争点ではない」と宣言し、エネルギー・郵便・交通などの公有化、国民保健サービスの民営化の阻止と公的な充実、1時間あたり10ポンド(約1400円)以上の生活賃金の保障、そして「緑の産業革命」という環境危機対策など、社会主義志向の諸政策を打ち出して選挙戦に臨んだ。同党はしかし、改選前よりも59議席を失って203議席にとどまり、戦後最悪の敗北を喫した。

明確さ欠いた離脱問題

 労働党の敗因は2つある。

 1つは、労働党が、EUに残留し欧州の左翼と連帯して新自由主義のEUを改革するという明確なメッセージを打ち出せなかったことである。

 16年6月の国民投票でもEU残留を支持する人びとは英国の有権者の半数近くに達していたし、その数は17年6月頃を境に増え始め、総選挙投票日の世論調査では残留賛成派が離脱派を8ポイント上回っていた。

 ところが、その残留賛成派のあいだでも労働党は47%の支持しか獲得できず、自由民主党に21%、保守党に20%もの票を奪われた。EUに残留するか否かを再度の国民投票にゆだねるという、総選挙での労働党の主張は、ジョンソン首相によってEU離脱を争点に仕立てられていた今回の総選挙では、有権者から曖昧な姿勢だと受けとめられた。



 労働党のマニフェストには、もし再度の国民投票でEUに残るという結果が出たらEUの緊縮財政路線を転換するとの簡単な言及があった。しかし、それは著しく受動的な方針でしかなく、国際的な連帯と協力によるEUの新自由主義の克服を有権者に攻勢的に訴えていく姿勢からはほど遠かった。「労働党と(英国からの独立を志向する)スコットランド国民党が政権を握ったら、来年またも2つの住民投票が行なわれる」というジョンソンの脅し文句に隙をあたえてしまった。労働党のマニフェストは結局、一国社会主義の政策であるにとどまったのだ。

 敗北の2つ目の理由は、ジョンソンの保守党が、宣伝の側面が濃厚ではあれ、10年のキャメロン政権以来の超緊縮政策を転換して公共投資を拡大すると、マニフェストで表明したことだ。

緊縮転換$體`した保守党

 労働党が選挙の争点の1つに掲げた国民保健サービスの改革について、ジョンソンは、医療向け予算を年間339億ポンド増やすことで看護師を5万人、医師を6千人増員し、40か所の病院を新設すると公約したほか、初等・中等教育に3年間で140億ポンドの予算を充てる、道路や高速鉄道に投資をする、付加価値税(消費税)を上げないなどの政策を掲げた。

 EU離脱をめぐる16年の投票で離脱支持がかろうじて多数を占めたのは、キャメロン政権による超緊縮政策への怒りとEUによる緊縮財政の押しつけへの不満が重なったことが背景にあった。ジョンソンは、緊縮政策からの方向転換を有権者に印象づけ、EU離脱に賛成する労働党支持層の一部をとり込んだ。図2に見られるとおり、今回の選挙では熟練労働者と未熟練労働者でも保守党支持者が労働党支持者を上回った。

 この点で、留意しておかなければならない点がある。

 英国でも日本でも、メディアは、労働党の政策が「極左」的で「現実離れ」していたことが、伝統的に労働党の支持基盤であったイングランド中・北部の旧炭鉱地帯と工業地帯で保守党に大幅に議席を奪われた理由だと指摘する。

 労働党のマニフェストは1番目に「緑の産業革命」を掲げ、「脱炭素化」を訴えている。グローバルな環境危機への対策は若者のあいだでは関心が高く、労働党への支持も年齢が若くなるほど高くなっている(図2)が、経済の発展から置き去りにされたと感じている旧鉱工業地帯では、環境危機対策は生活を脅かす主張だと受けとめられる可能性がある。フランスのマクロン政権が社会保障縮小と並行して提案した燃料税が「黄色いベスト運動」による激しい反対に遭遇したことは、環境保護と不平等の是正とを両立させる必要性を裏付けている。

社会主義の拒絶ではない

 しかし、社会主義を志向した労働党の政策そのものがこれらの地域で拒絶反応にあったのではない。そうではなく、社会的な正義と環境の正義を実現するためには国際的な連帯と丁寧な雇用保護・社会保障が必要であることを、長大なマニフェストではなく簡潔な言葉で草の根にまで訴えていく必要があったのだ。

 アメリカ民主主義的社会主義者(DSA)は英国総選挙結果を受けてこう述べている。「労働党の敗北は、社会主義の政策がいま不人気で不必要であることを意味してはいない」

 コービンは、20年の早いうちに労働党の党首を辞任すると表明した。だがそれは、ブレア元首相に代表される新自由主義的な潮流を抑えつけてコービンのような社会主義者を労働党の指導者に押し上げていった英国の平和運動・社会運動・環境保護運動そのものの退潮をけっして意味しない。

 英国に限らず世界の左翼は、多く人びとが切実な課題であると受けとめている環境保護と社会主義の政策とを、国境の壁を越えて構想し実践していく必要がある。今回の英国での総選挙は、そのことを私たちに教訓として残した。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS