2020年01月17日 1608号

【「グレタ叩き」をどうみるか/若者を政治に近づけさせない狙い/グローバル資本が恐れている証明】

 「日本の若者たちは政治や社会問題への関心が低い」と政治家やメディアは嘆く。だが、変革に立ち上がった若者たちを揶揄(やゆ)し、孤立させ、呼応する者を封じようとする言説をタレ流してきたのは奴らだ。16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんに対する誹謗中傷攻撃がまさにそれにあたる。

影響力削ぐ狙い

 米国の『タイム』誌は、2019年の「ことしの人」にスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんを選んだ。「世界が直面する大きな課題、環境問題に対して世界中の関心を集め、行動を促すことに成功した」ことが選出の理由である。

 実際、「気候正義」を求めてグレタさんが始めた行動は全世界的なムーブメントを巻き起こしている。また、昨年9月の国連気候行動サミットで各国首脳に怒りをぶつけたスピーチは大きな注目を集めた。「あなたたちが話しているのは、お金のことと経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないのですか!」

 グレタさんの訴えは、斎藤幸平・大阪市立大学大学院准教授が指摘するように、資本主義のあり方を根本的に問うものだ。「永遠の経済成長はない」とする主張の眼目は「気候危機に真剣に対処しようとするなら、利潤だけを追求する経済システムをやめ、持続可能な別の社会を作り出さなくてはいけない」(『世界』1月号・斎藤論文)ということにあるからだ。

 「気候正義」の訴えに多くの若者が共鳴し立ち上がったことに、グローバル資本主義の頭目たちは震え上がった。そこで連中の使用人である政治家や御用文化人を使い、「環境ヒステリー」などとグレタさんを嘲笑することで、影響力を削ごうとしている。

 日本でも同様の「グレタ叩き」が相次いだ。「16歳の考えに世界が振り回されたらダメだ」(橋下徹・元大阪市長)。「洗脳された子供」(作家の百田尚樹)。「お嬢ちゃまの単なるパフォーマンス」(極右タレントの竹田恒泰)等々。小泉進次郎環境相も「大人たちに対する糾弾に終わってしまっては未来はない」とコメントした。

 こうした妄言に一片の正義もないことは言うまでもない。だが、若者を「政治的なこと」に近づけまいとする言説、すなわち社会的関心の発露を抑え行動を制限する「呪いの言葉」が、この日本では強力な呪縛作用を発揮していることもまた事実なのだ。

作られたあきらめ

 日本財団が昨年秋に実施した「18歳意識の国際調査」をみてみよう。この調査は日本を含むアジア6か国と欧米3か国で「国や社会に対する意識」をテーマに行われたものだが、日本の若者たちが国際的にみて異様な抑圧状態の中に置かれていることがわかる。

 たとえば、「自分で国や社会を変えられると思う」という者は18・3%しかいない(9か国中最下位)。米国65・7%や中国65・6%とは大きな開きがあるし、8位の韓国39・6%と比べても半分以下だ。

 「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」は27・2%。これも他国より著しく低い数値での最下位である。自分を「責任がある社会の一員」だと思っている者は半数もおらず(44・8%)、「国の役に立ちたいと思わない」という回答は調査9か国の中で最も多かった(14・2%)。

 将来の展望を見いだせない者の割合がきわめて高いのも日本の特徴だ。自国の将来について「良くなる」9・6%はまたまた最下位。「どうなるか分からない」との回答(32%)は調査国の中で最も多く、「悪くなる」は37・9%はEU離脱に揺れる英国の43・7%に次いで多かった。

 将来への強い不安を抱きながらも、「どうせ何も変わらない」「自分にできることはない」とあきらめさせられている。政治や社会参加には消極的で、仲間内で話題にすることなんてありえない――調査からは日本の若者たちのそんな姿が浮かび上がってくる。

 こうした現状を表面的にとらえ、「日本の若者は覇気がない」式の批判をしたところで、彼らには偽善としか映らないだろう。「普通の人は政治的な話などしない」という社会通念(実は世界の非常識)を広めてきたのは、支配層の思想文化支配に取り込まれた世の大人たちだからである。


大転換の時代が来た

 日本における「グレタ叩き」は、いわゆる「意識高い系」嫌悪の変形といえる。「あの人たちは恵まれてるから、“社会を変えよう”なんて気楽に言えるんだ。難しいことを考える余裕もない私らを見下しているようで、嫌な感じだよね」というやつだ。

 「政治の話はタブー」という縛りはまだまだ強い。とはいえ、日本の支配層が「我が国は安泰」と楽観しているかというと、決してそうではない。連中はやはり若者たちを恐れている。大学入試共通テストへの英語民間試験や記述式問題の導入見送りがそうである。反対運動をリードした若者たちの行動力に驚き、安倍政権は土壇場での断念を余儀なくされた。

 資本主義の行き詰まりが明らかな大転換の時代において、世界の若者たちは誰もが平和に暮らせる自由で平等な社会の実現に向けて行動を始めている。当然、合流を阻もうとする支配層の抵抗も激しくなる。

 御用メディアを総動員した思想文化支配に負けないためには、正しい情報と説得力のある論理が必要だ。その要請に本紙も応えていきたいと思う。  (M)

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