2020年01月24日 1609号

【読書室/この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代/雨宮処凛編著 大月書店 本体1600円+税/「命の選別」にあらがうには】

 若者の貧困や不安定労働の問題に取り組んできた作家・雨宮処凛の対話集。テーマは、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された、2016年7月の事件である。

 逮捕されたのは施設の元職員だった。彼=植松被告は「私は障害者470名を抹殺できる」「世界経済と日本のためだ」と書いた手紙を衆議院議長に渡そうとしていた。本書は彼を「時代の子」と表現する。事件の背景には現代日本を覆い尽くす新自由主義の思想があるという意味だ。

 自閉症のわが子と暮らす新聞記者は、獄中の植松被告にこう問いかけたという。「あなたは『役に立つ人』と『役に立たない人』に人間を分けて考えているようだが、もしかすると自分は役に立たない人間だと思っていたのではないか」。彼は「たいして存在価値のない人間だと思っています」と答えた。入所者19人を殺害したことで「少しは、役に立つ人間になったと思います」とも…。

 脳性まひの当事者である小児科医は、経済効率最優先の風潮の中で「社会モデル上の障害者」というべき存在が大量に生み出されていると指摘する。社会から「不要とされた」人びとのことだ。彼らは「いわば犯人探しに失敗して、高齢者や障害者、貧困層に敵意を向けているのではないか」というのである。

 「生産性の高さ」で人の価値を測り、すべての人を「不要とされる不安」に陥れている思想が、この国の人びとに「剥き出しの生存競争」を強いている。ならば「弱さや生きづらさを開示することで連帯できないか」。本書はこう呼びかけている。     (M)
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