2020年01月31日 1610号

【自衛隊の中東派遣強行/世論調査、なぜこんなに違う/「賛成」を増やす質問のトリック】

 米国とイランの全面衝突はひとまず回避されたが、戦争の危機は依然として続いている。そうした一触即発状態の中東へ、安倍政権は海上自衛隊の派遣を強行した。人びとはこれをどう受け止めているのか。世論調査のまったく違う結果は何を意味しているのか。

共同とNHKの差

 1月11日、自衛隊中東派遣の第1弾として、海上自衛隊のP3C哨戒機2機が那覇航空基地から出発した。このタイミングで行われた報道各社の世論調査をみてみよう。

 共同通信の調査(1/11、1/12実施)では、自衛隊の中東派遣に「反対」が58・4%。「賛成」34・4%を上回った。12月の調査では「反対」は51・5%だった。米国によるイラン革命防衛隊司令官の殺害、イランの報復(米軍基地へのミサイル攻撃)という事態を受け、「反対」意見が増えたことがわかる。

 ところが、NHKの調査(1/11〜1/13実施)では、「賛成」意見の方が多かった(賛成45%、反対38%)。同じ傾向は産経新聞とFNNの合同調査(1/12、1/13実施)でも見てとれる(賛成49%、反対35・3%)。

 同じ時期に実施しているのに、調査結果にここまで開きが出るのはどうしてなのか。察しの早い方はピンときたことであろう。質問の内容が違うのである。

 NHKは「中東地域に原油の大半を依存していることをふまえ、政府は、自衛隊を中東に派遣し、日本に関係する船舶の安全確保に必要な情報収集態勢を強化するとしています」と前置きした上で、「賛成」か「反対」か尋ねている。

 産経・FNN調査の設問は「エネルギー供給の大動脈である中東地域での日本関連船舶の安全確保に向け、政府は情報収集態勢を強化するために海上自衛隊の艦艇などを派遣する方針だが、賛成か」というもの。もはや賛意の押しつけ以外の何ものでもない。

 確実に言えるのは、エネルギー問題の強調は自衛隊の中東派遣に賛成の意見を増やす効果がある、ということだ。だから、安倍晋三首相もこの論法を使った。いわく「エネルギーの多くはこの地域を多く通る。日本関係船舶の安全を守ることは日本の経済にとって死活的に重要だ」(1/12NHK「日曜討論」)。

安倍の改憲衝動

 また、政府は今回の派遣が「情報収集活動」であることをしきりに強調している。自ら武力衝突の可能性に言及することはない。

 たしかに、派遣命令は防衛省設置法上の「調査・研究」を根拠としている。だが政府の派遣計画には、現地で不測の事態が発生した場合には自衛隊に海上警備行動を発令する、とある。海上警備行動では武器使用が認められる。海自部隊が応戦する事態を想定しているということだ。

 安倍首相の言動を観察していると、不測の事態すなわち海自部隊や日本船舶が攻撃されることを密かに期待しているとしか思えない。悲願の憲法「改正」を一気に進めるために、交戦の既成事実を作ろうとしているのではないか。

 事実、自民党の憲法講座であいさつした安倍首相は、「時代にそぐわない部分は改正すべき。その最たるものが憲法9条だ」と力説した(1/16)。キーワードは「時代にそぐわない」。自衛隊や民間船舶に被害が出た場合、安倍応援団が「時代にそぐわない9条の制約のせいだ」と大騒ぎすることは目に見えている。

軍隊による安全はない

 1月10日、自衛隊の中東派遣に反対する集会が那覇市内で行われ、参加者は「沖縄を出撃基地にするな」「米国の戦争への加担をやめよ」と声を上げた。

 那覇市の平良亀之助さん(83)は、ベトナム戦争の際に沖縄の米軍基地が出撃拠点になったことに触れ、「沖縄はベトナムから『悪魔の島』と呼ばれ、憎しみの対象になった。そういう状況が、また目の前にやってきてしまった」と嘆いた(1/12沖縄タイムス)。

 軍事基地はまっさきに交戦国の標的となる。琉球新報は1月10日付の社説で、「米軍基地がある沖縄にとって対岸の火事ではない。イランと米国の軍事衝突が起きれば、沖縄の安全が脅かされ、基幹産業である観光にも打撃を与えかねない」と指摘した。

 沖縄の人びとは軍事行動が住民の安全を脅かすことをリアルに感じている。殴れば殴り返される。軍隊による安全・安心などありえないということだ。

 そもそも、中東情勢緊迫化の原因はトランプ米政権がイラン核合意から一方的に脱退したことにある。海上輸送路の安全を脅かしているのは米国の戦争挑発政策なのだ。そのトランプの呼びかけに応じ(日本政府は否定するが、客観的に見ればそうだ)、この地に派兵するなんて…。これを愚行と言うのである。(M)

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