2020年01月31日 1610号

【読書室/中高年引きこもり ―社会問題を背負わされた人たち―/藤田孝典著 扶桑社新書 本体900円+税/当事者の声から出発する】

 本書は、「61・3万人」(2018年度内閣府調査)と推計される40代から60代のいわゆる「中高年引きこもり」の実態に迫ったものである。

 著者は「中高年引きこもり」の当事者へのインタビューをもとにこの問題を分析している。そこから見えてきたのは、いったん社会に出た後に、職場でパワハラやセクハラにあい、働くこと自身に困難を感じるようになってしまった人びとが多いこと。さらには「引きこもり」に対する無理解から生じる差別、偏見が当事者を追いつめ、信頼する家族からも見放されてしまったために、心が壊れてしまい精神的疾患を患う人も少なくないことだ。

 こうした実態を無視した、または十分踏まえていない「サポート」は、行政、民間を問わず当事者から厳しい批判がある。当事者の間では、厚労省が主導するサポートステーションに対して、「『甘えるな』『ちゃんと働け』と説教され、傷つけられるだけ」と評判が悪い。中には、ブラック企業が事業にタッチし、相談者をベルトコンベヤーのように関連企業に流しているものまである。

 ひきこもり問題に向き合うには、まず当事者の声に基づくべきというのが本書の主張だ。孤立しがちの当事者のネットワークが今広がりを見せている。そこから、様々な支援策や行政への要求も生まれつつある。

 著者は、現在の労働市場、企業が中高年引きこもりを大量生産している事実を強調する。労働市場の改善なくして中高年の引きこもり問題は解決しない。労働組合や個人加盟の地域ユニオンなどとのつながりが強く求められる、との指摘は重要だ。  (N)
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