2020年02月07日 1611号

【「全世代型社会保障改革」のワナ/「人生100年時代」とは「死ぬまで働く」こと?!/すべての人の生存権破壊する大改悪】

 「全ての世代が安心できる『全世代型社会保障制度』を目指し、本年、改革を実行してまいります」―安倍晋三首相は施政方針演説で今年最大のチャレンジとこう大宣伝した。だが、この「改革」は、社会保障全般を後退させ、すべての人びとの生活をさらに悪化させる内容を持つ。

改悪策オンパレード

 安倍首相を議長に関係閣僚、御用学者、企業経営者らをメンバーとする全世代型社会保障検討会議は、昨年9月設置以来、すべての世代を対象にした社会保障全般の改悪に向けた検討を進めている。昨年12月、中間報告を公表、最終報告は夏ごろに出すという。

 中間報告は、「少子高齢化・ライフスタイルの多様化・人生100年時代の到来」という時代認識を前提にしている。だが「人生100年時代」とする認識は、ごく一部の学者が提唱する何の検証もない仮説≠ナしかない。にもかかわらず、中間報告のベースになった。その上で、「今後の改革の視点」は「『高齢者』と一括りにすることは現実に合わなくなっている」ため「生涯現役(エイジフリー)で活躍できる社会を創る必要がある」としている。

 なぜこれほど「人生100年」を強調するのか。

 隠された安倍政権の意図がある。要は、人生100年時代がやってくるので、70歳まで働き続けなさい≠ニ言いたいのだ。

 中間報告は「これまでの社会保障システムの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めていくことが不可欠」と強調する。そのため、年金、労働、医療、予防・介護の各分野で具体的改悪内容を列記した。つまり「社会保障システム自体の改革」とは社会保障制度全般についての解体を意味するものに他ならない。

 年金制度のさまざまな見直しの中で特に問題なのは、繰り下げ受給の開始年齢を75歳までのばすことである。「遅くもらえば、もらえる額が増えてお得」と誘導したいようだが、実は65歳の受給資格年齢そのものの引き上げを狙っていることは明らかだ。中間報告には「年齢引き上げをしない」とあるが、それは「70歳までの就業機会の確保」という条件が整うまでの期間限定にすぎない。

高齢者攻撃は手始め

 労働分野では、「70歳までの就業機会確保」を重視している。年金の受給資格年齢引き上げと重ねてみれば狙いがはっきりする。年金は70歳から支給、それまで働き続けよ≠ニいう宣告である。さらに、兼業や副業の拡大、雇用によらないフリーランスの働き方にも言及しているが、みな年金70歳支給と連動している。

 医療制度では負担増が明記された。75歳以上の窓口負担を1割から2割(一定所得以上の場合)に引き上げ、紹介状なしでの大病院受診は負担増となる。露骨な受診抑制である。

 予防・介護では、「予防・健康づくりへの支援強化」の名で要介護の対象をせばめ、切り捨てに誘導する。

 このように高齢者への給付削減と負担増が「全世代型社会保障改革」の骨子となっている。そこには団塊の世代が後期高齢者に入って給付が急増するであろう2020年までに現行水準を引き下げようとする意図がある。「全世代型」なる呼称で隠蔽しているのだ。

 同時に、年金受給開始引き上げの被害を最も被るのが現役世代であることを考えれば、高齢者負担増は若い世代の負担増を意味するのであり、全世代への攻撃なのだ。

 安倍政権は、通常国会に年金・労働・介護の関連法案提出をもくろんでいる。「全世代型社会保障改革」ではなく、最低保障年金など社会保障拡充の対案を掲げよう。



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