2020年02月07日 1611号

【隠蔽、改ざん、違法な廃棄/公文書が消える「桜を見る会」/民主主義を壊す安倍政権】

 「評価は後世の歴史家にゆだねるべき」。自分の行いを正当化したい政治家が好んで使うフレーズだ。だが、そう言う本人が裏では証拠隠滅に励んでいたとしたら…。その最悪の実例が安倍首相である。度し難い隠蔽(いんぺい)体質は「桜を見る会」の一件が示すとおりだ。

役人に責任転嫁

 安倍晋三首相が地元後援者を大量招待するなど、公的行事の「私物化」が批判されている「桜を見る会」。政府は1月17日、同会の招待者名簿の違法な管理などをめぐり、内閣府の文書管理を所管する現職および歴代の人事課長6人を厳重注意処分とした。

 違法な扱いの内容は次のとおり。まず、2013〜17年度の5年分の招待者名簿について、公文書管理法が義務づける管理簿への記載を行っていなかった。廃棄の記録も残してこなかった。「ルールに基づき対応してきた」という、これまでの政府説明が根底から覆ったことになる。

 さらに、「桜を見る会」の推薦者名簿を昨年11月に国会に提出した際、推薦した部局名を隠す細工をしていた。「首相枠」を意味する「閣総」(内閣官房内閣総務官室)の文字を「白塗り」加工していたのである。「黒塗り」なら何か書いていたことはわかるが、これは記述の事実さえ消すだけに、いっそう悪質だ。

 これほど大胆な改ざんが官僚の一存で行われるとは考えにくい。だが、菅義偉官房長官は「担当レベルの問題が大きい」として、自身を含む政権首脳の責任を否定した。今回の処分で問題の幕引きを図る姿勢が露骨である。

 そのうえ、民主党政権時代の11、12年度の招待者名簿も管理簿に未記載だったと居直った。ちなみに「桜を見る会」はこの2年間行われていない(東日本大震災等の影響で中止)。民主党政権時に唯一行われた10年度分の名簿はちゃんと記録されている。

記録を拒む官邸

 真相究明の鍵を握る招待者名簿について、安倍首相は「すべて廃棄済み」と言い張り、再調査を拒んでいる。たしかに規定では名簿の保存期間は1年未満なのだが、なぜこんなに短いのか。「前例」を重視する役所の常識に反している。

 昨年4月に行われた「桜を見る会」の場合、共産党の国会議員が質問のために資料請求したその日(5月9日)に、名簿は廃棄されたという(電子データも同時期に削除)。決算完了前に予算執行資料を捨てるなんて、ありえないことだ。

 そうした公文書の「ありえない」扱いが安倍政権の下で横行している。森友学園問題では国有地売却の決裁文書が改ざんされた。加計学園の獣医学部新設問題では「総理のご意向」を示す文書が存在しないことにされかけた。自衛隊が「戦闘」に直面していたことを記録した南スーダンPKOの現地報告も長らく隠蔽されていた。

 政権の隠蔽主義が国家機構の末端まで及んでいるということだ。毎日新聞「公文書クライシス」取材班の大場弘行記者によれば、官僚たちはあらゆる手段を使って記録の公開を避けようとしているという。たとえば業務で使っている明らかな公文書であっても、「個人のメモ」だと言い張って情報公開請求の対象から外す手口である。

 首相官邸にいたっては、首相と各省庁幹部の打合せ記録をまったく作っていない。省庁側に問い合わせても「記録はない」という。「官邸は情報漏えいを警戒して面談に記録要員を入れさせない」「面談中にメモを取ると注意される」からだ(12/26毎日)。

 正確な記録がなければ権力者の行為を外部から検証することはできない。公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけ、「主権者である国民が主体的に利用し得る」とした公文書管理法を、安倍政権は完全に無視している。

ルーツは戦犯逃れ

 「どのような行為が侵略かは、歴史家に判断をゆだねるべき」。戦後70年談話の発表にあたり、安倍首相はこう語った(2015年8月)。しかし、この国では歴史の検証が大変難しくなっている。敗戦のどさくさに紛れて、戦争政策に関係する公文書が徹底的に焼却されたからだ。

 当時、内務官僚だった奥野誠亮(後の自民党衆議院議員)は、「戦犯問題が起きるから、戦犯にかかわるような文書は全部焼いちまえ、となったんだ」と証言している(2015年8月11日付読売新聞)。

 公文書焼却から43年後、国土庁長官となった奥野は「あの当時日本に侵略の意図は無かった」と発言し、批判を浴びた。この極右政治家の大先輩から、安倍は証拠隠滅による責任追及逃れの手口も受け継いだのだろう。この国に巣食う隠蔽体質の根は深い。 (M)

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