2020年02月07日 1611号

【読書室/人間使い捨て国家/明石順平著 角川新書 本体860円+税/統計で暴く低賃金・長時間労働の実態】

 「この国が衰退している大きな要因は低賃金、長時間労働。『安くて便利』は『低賃金・長時間労働』で支えられ、その実態を統計で分析すると、想像を超え、まさに『人間使い捨て』と言うしかない実態であった」。著者が暴き、強調する本書の眼目だ。

 この長時間労働を可能としているのは、仕組み自体に欠陥がある労働法とその運用である。時間外労働には割増手当が支払われるが、これは企業に課せられるペナルティであり、長時間労働に対するブレーキにならなければならない。ところが、日本の割増率は諸外国に比べても極めて低い。企業はその残業代さえも支払うことを免れようとする。出退勤記録をごまかし、「サービス残業」を常態化させ、「固定残業代」というインチキ残業代で長時間労働を強制している。

 コンビニ店オーナーの在職死亡率は異常な高さだ。売上利益の6割以上もロイヤリティの名目で本部が徴収し、廃棄商品の損失は加盟店オーナーがかぶる。著者はすさまじい搾取構造下の無制限長時間労働を「現代の小作農」と呼ぶ。

 外国人労働者についても、危険な作業に従事させ、残業代未払い、パワハラ、ピンハネの実態があとをたたない。もともと「残業代ゼロ」の公立学校教員の長時間労働や公務員の労働実態も統計で示される。

 筆者は最後に「脱・人間使い捨て国家」としての対案とともに「労働実態を記録する」「労働組合を活用する」ことを挙げる。

 非正規労働、長時間労働は実質賃金低下と消費停滞の元凶だ。アベノミクスの労働政策を徹底的に批判するためにも、本書の活用を勧めたい。    (T)
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