2020年02月14日 1612号

【「死ぬまで働け」一括法案 年金改悪と一体で 低賃金、労働法はずし】

 安倍政権は「全世代型社会保障」を看板に全分野での負担増と権利剥奪を狙う。労働分野では、年金支給開始年齢引き上げと一体の「死ぬまで働け」政策が進められようとしている。

 1月8日、労働政策審議会が「雇用保険法等の一部を改正する法案要綱」を了承。それをうけて政府は2月4日、雇用保険法、労災保険法、高齢者雇用安定法、労働施策総合推進法など一括法案を閣議決定し、国会に提出した。

 安倍政権は、年金の受給資格年齢の70歳への引き上げを画策しており、その前提として「70歳までの雇用・就業機会の確保」を法案に盛り込んだ。

 法案の立法趣旨は、少子化の進展を前提とし、「高齢者の労働力化」が不可避とする。だが、少子化は、長時間労働の蔓延、非正規化の推進、賃金の長期低落、待機児童問題をはじめとする子育て支援策の欠如という歴代自民党政権の労働・社会保障政策によって引き起こされてきたものだ。

 高年齢者の就業率の増加傾向は、年金支給開始年齢の引き上げと支給額の抑制、低すぎる国民年金、社会保険負担の増大、医療・介護の自己負担増の結果だ。

 法案は、まず、使用者による選別排除を認めている。

 立法趣旨は「65歳以降の高年齢者は、それ以前と比べて体力や健康状態その他状況がより多様なものとなる。このため、事業主が講ずる雇用確保措置について、対象者の限定を可能にすることが適当である」とし、「対象者の限定」=選別、全員継続雇用の拒否を当然のものとする。

労働法なき働き方狙う

 さらに法案は「70歳までの就労機会の確保」を図る措置として7項目を挙げる。

(1)定年廃止

(2)70歳までの定年延長

(3)継続雇用制度導入

 これらは、現行の高齢者雇用安定法における65歳までの「雇用機会の確保」のメニューと同じだが、これに新メニューが加わる。

(4)他の企業への再就職に関する制度の導入

(5)個人とのフリーランス契約への資金提供

(6)個人の起業支援

(7)個人の社会貢献活動への従事に関する制度の導入

 (5)(6)などは、安倍政権が進める「フリーランス化」であり、いったん退職した元従業員を業務委託で働かせることを合法化しようというものだ。業務委託であれば、現行労働法の下の労働者保護が外される。

 現在でも60歳代後半の労災発生率は、20代後半に比べて男性で2倍、女性で4・9倍にもなる。疾病を抱えながら働く労働者が増加する年代にもかかわらず「ケガ・病気は個人持ち」という大問題の法案だ。

 労働者が退職・起業し、元々働いていた企業と取引することは珍しくない。だが、退職して業務委託への切り替えを可能とする制度を労働法の中に取り入れることは危険極まりない。

 安倍政権は、労働法が適用されない「雇用されない働き方」「雇用類似の働き方」の普及を狙っており、65歳以上だけではなく、他の年齢層にも適用される恐れがある。

労働条件引き下げ許すな

 すでに65歳までの雇用機会確保措置は各企業で制度整備が進められているが、60歳時点に比べて労働条件が大きく引き下げられ、「同一労働同一賃金」に反する状況となっている。

 雇用期間の長期化を理由に賃金体系を見直し、50代の賃金水準を引き下げて60代以降の人件費にまわすような不利益変更も蔓延している。法案には、こうした待遇の改善についての視点がまったくないばかりか、高齢労働者の低賃金、劣悪な労働条件をいっそう推し進めるものだ。

 安倍政権の年金改悪と「死ぬまで働け」攻撃を許さず、生活と権利を守らなければならない。

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