2020年02月14日 1612号

【日米安保条約60周年/安倍首相は「不滅」と誇るが…/平和的生存権踏みにじる軍事同盟】

 署名から60周年を迎えた日米安全保障条約。安倍晋三首相に言わせれば「世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱」なのだそうだ。悪い冗談はやめてくれ。日米安保条約の本質は「占領下の戦争協力体制」を永続化することにある。現代の治外法権というべき日米地位協定がその証拠だ。

今も続く全土基地化

 「今や日米安保条約は、いつの時代にも増して不滅の柱。世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱だ」。日米安保条約の署名から丸60年を迎えた1月19日、日本政府主催の記念式典であいさつした安倍首相はこう語った。

 現行の安保条約は1951年締結の旧条約を改定したものだ。安保改定の日本側立役者は岸信介元首相。安倍の祖父である。安倍は「隷属的な条約を対等なものに変えた」(著書『美しい国へ』)と、祖父の「業績」を讃えている。

 たしかに旧条約の主眼は、朝鮮戦争の出撃拠点として日本全土を基地化することにあった。米側の交渉責任者だったダレス国務省顧問(後の国務長官)が、「この条約の最大の目的は、われわれが望む数の兵力を、望む場所に、望む期間駐留させる権利を獲得することである」と、あけすけに語ったとおりだ。

 では、軍事占領の継続というべき状態は安保改定により解消されたのか。本質的には何も変わらなかった。日本全体が今なお米軍に対して治外法権下にある。その法的根拠となっているのが、現安保条約と同時に結ばれた日米地位協定だ。

 日米地位協定とは、日米安保条約第6条にもとづき、在日米軍の法的地位などを定めた協定のこと。具体的な運用を協議する機関として日米合同委員会が設けられている。

 全28条からなる地位協定は米軍に次のような特権を与えている。「日本の法律の適用除外」「日本のどこにでも施設・区域の提供を求める権利」「基地の排他的管理権」「裁判における優先権」等々。これらの規定と日米合同委員会で交わされる密約により、在日米軍は日本の法律に拘束されずに軍事行動を展開できるというわけだ。

 つまり、「おじいちゃんが日米安保条約を対等なものにした」という安倍の自慢話は真っ赤な嘘だった。岸こそは、新しい安保条約と地位協定が結ばれても以前と同じ基地の自由使用の特権を米軍に認めるという、とんでもない密約(1960年1月6日)を結んだ張本人なのである

日本を守るためではない

 やりたい放題の軍事演習。事件・事故を起こしても日本の法律で裁かれない。巨額の駐留経費を肩代わりする「思いやり予算」まで…。日米安保条約の下での米軍厚遇は世界でも類を見ないものだ。これを正当化するために、歴代の日本政府は「米軍は日本を守るための抑止力」という、お題目を唱えてきた。

 しかし、米国側の見解は違う。1971年12月、当時のニクソン大統領に国務次官が提出したメモには「在日米軍は日本本土を防衛するために駐留しているのではない」とある。同様の米政府機密文書がこのほかにも発見されている。

 さらに、レーガン政権のワインバーガー国防長官は82年4月、米上院に提出した書面で「沖縄の海兵隊は日本の防衛には充てられていない。それは米第7艦隊の即応海兵隊であり、同艦隊の通常作戦区域である西太平洋、インド洋のどの場所にも配備される」と明言していた。

 米軍基地は「抑止力」などではない。米国の侵略のための軍事拠点であり、世界の民衆の脅威となっているのだ。日本政府が沖縄・辺野古に作ろうとしている米海兵隊新基地についても同じことが言える。

憲法の上に立つ安保

 一昨年の夏、全国知事会は日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言した。航空法や環境法令などの国内法を米軍にも適用させるという、至極当然の要求だ。しかし、安倍政権は何のアクションも起こしていない。

 連中は米国が怖くて何も言えないのか。そうではない。日米安保条約を頂点とする戦時法体系が日本国憲法を骨抜きにする事態は、改憲・戦争国家づくりに突き進む安倍政権にとっては好ましいことなのだ。

 それに日本政府自身が自衛隊の海外駐留に際し、治外法権そのものの地位協定を受け入れ国に認めさせている(ジブチの事例。別記事参照)。日米地位協定の改定に日本政府が後ろ向きな理由の一つに「今後の自衛隊の海外派遣先国との地位協定に影響することは避けたい」との思惑があると、ジャーナリストの布施祐仁は指摘する。

   *  *  *

 「日本国憲法の上に日米地位協定があって、国会の上に日米合同委員会がある」。今は亡き翁長雄志・前沖縄県知事の言葉を思い出す。そうした異常事態を「あたりまえ」に感じてしまってはならない。

 自国民の平和的生存権が侵害されても平気な者は、他国民のそれをより平然と踏みにじるだろう。日米安保条約を「不滅」と言い切る愚か者がその典型であることは言うまでもない。

   (M)



ジブチ駐留自衛隊/占領軍なみの治外法権

 「情報収集」の名目で中東の海域に派遣された海上自衛隊の哨戒機部隊。その拠点となるのが、アフリカ東部の国ジブチにある自衛隊の「海外基地」である。

 日本とジブチは09年4月、自衛隊の地位に関する協定を結んだ。この協定により、任務にあたる自衛隊員や海上保安官らには原則、ジブチ国内の法令が適用されない。事件・事故を起こしても現地での法的責任を一切免責される。日米地位協定にあるような「公務中・公務外」の区別すら存在しないのだ。

 まさに占領軍なみの治外法権といえる。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS