2020年02月21日 1613号

【新型肺炎/クルーズ船で洋上隔離/人権侵害でなく医療充実だ】

 中国・武漢市で蔓延している新型肺炎対策と称して、安倍は人権無視のクルーズ船の洋上隔離≠実施した。その一方で、自民・維新の改憲連合は自らの改憲策動に利用している。必要なのは強権的な隔離政策でも改憲でもなく、感染症に耐えうる医療態勢の充実だ。

クルーズ船は監獄か

 ウィルス感染者が出たことへの対策として政府は洋上隔離≠ノ出た。

 2月3日、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号を隔離≠オた。乗客は自室から出ることを禁じられた。小さな客室は16u〜17uで窓もなく外光も入らない。廊下には監視役≠ェいるという。その後時間と場所を指定して室外を「他の乗客と距離をとって散歩」することが許可された。まるで監獄での独房生活だ。

 検査で未感染者と確認できれば下船は可能だ。検査のための試薬は遅くとも1月24日には、タカラバイオ(本社・滋賀県)が大連工場で週5000人分を量産していた。厚生省も23日、地方衛生検査所に試薬を発送している。にもかかわらず、乗船者の希望に背を向け全数検査せず、隔離を続けている。人権無視も甚だしい。その上、人権制限の「緊急事態条項」を盛り込む改憲まで持ち出した。過去、社会防衛を人権の上に置く隔離政策は、ハンセン病や精神疾患患者など多くの人生を奪った。

船内は武漢の縮図

 船内の乗客・乗員は合計3711人だ。船医2人と看護師4人が乗務しているのみ。船内では感染者が次々発生し、2月7日、自衛隊の医官5人を派遣した。だが、感染予防に必要な十分な設備がない狭い船内での隔離は、3次感染を引き起こした。

 武漢市では、新型肺炎対策として交通遮断され、市域全体が隔離された。一日1000人の新感染者が発生している同市では、感染者数に比して、医師、医療設備・資機材が不足しているという。感染者増、感染者対策の遅れ、新たな感染者発生という負のスパイラルに陥り重症化を招き死者をだした。医療態勢崩壊との指摘もある。中国政府は1月25日、軍医など1200人を動員し、450人が同市入りしたが医療態勢崩壊は止まらない。

 クルーズ船内は武漢市の縮図となっている。

 武漢市で重篤化し死亡した多くの人が、何らかの基礎疾患を持っていることは、日中両政府機関から指摘されてきた。仮に隔離するとしても、その場所は船上ではない。特に持病を持つ人は医療機関であるべきだ。

 新型ウィルスに効く薬はないのだから、感染者の命を守るためには、基礎疾患が悪化しないよう医療の管理下に置かないといけない。

 政府は新型肺炎を感染症予防法上の「指定感染症」とした。指定感染症患者を治療できる設備を持つのは、感染症指定医療機関だ。クルーズ船が停泊する神奈川県では、8病院74床しかない。感染者のうち何人が基礎疾患を持っているかは不明だが、すぐにパンクすることは目に見えている。

感染病床は不足

 安倍政権は外国人観光客招請を「成長戦略」と位置づけ、外国人労働者受け入れを進める。東京オリンピック、大阪万博も招致した。国外から新感染症が持ち込まれるリスクは当然ある。本来感染症対策もセットで充実しなければならない。だが対策を担う医療機関は訪日客の多い上位10都道府県でもすべて貧弱だ(表)。全国では410か所、1871床しかない。エボラ出血熱など最も厳格な管理を要する感染症に対応できるのは全国59医療機関、113床しかない。



 これらはすべて国公立や公的(日赤など)医療機関と大学病院だ。安倍は全国の公立・公的病院の約3分の1を再編統合しようとしている。選定基準の機能評価に感染症指定は含まれず、再編統合の対象となっている。安倍政権は感染症対策は見向きもしない。

 医療態勢拡充こそ急務だ。

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