2020年02月21日 1613号

【福島原発事故汚染水/政府が狙う「海洋放出」/健康被害も承知の上/カネをかけずに収束宣伝】

 福島第一原発の放射能汚染水の処分方法を議論してきた政府小委員会は1月31日、「現実的な選択肢」として、事実上「海洋放出」を提言する報告書を大筋で了承した。公聴会での9割以上の反対の声や実際に起きている健康被害を無視した「海洋放出」案を認めるわけにはいかない。

「海洋放出」へ誘導

 福島第一原発では、冷却水と地下水が混ざり合って大量の放射能汚染水が今も発生し続けている。この汚染水をトリチウム(三重水素)以外の放射性物質を除去するとされる装置にかけたあと「処理水」と称してタンクに貯蔵しているが、トリチウム以外にも基準値を超えるストロンチウムなどの放射性物質を含む。東電は、貯蔵された「処理水」は約120万立方bにのぼり、2年後の夏には現在想定している敷地がタンクで満杯になるとして「対策」を焦っている。

 「処理水」の取り扱いに関する小委員会は2018年8月、3か所で開催した公聴会で海洋放出、蒸発させて大気放出、地下埋設など5つの処分方法を提示した。公聴会では、意見陳述した44人のうち42人が海洋放出に反対・慎重を表明し、陸上保管の継続を主張していた。今回の提言は、こうした声を無視し、事務局(経済産業省)が当初からの腹案へと強引に誘導したものだ。

トリチウムの危険性

 提言は、「海洋放出」を推す理由として、放射性トリチウムを含む排水は国内外の原発で日常的に海に放出されていることをあげる。 また、「トリチウムを含む水は水と同じ性質で臓器に濃縮して蓄積することはない」という。

 しかし、水と結合したトリチウムは生物の体に入ると炭素などの有機物とたやすく結合して有機結合型トリチウム(OBT)に変わる。野菜、果物、魚などにも容易に入り込み、食物連鎖を通じて濃縮される。それらを人間が食べた場合、このOBTは体内に長く留まることがわかっている。OBTは細胞を構成する水素と入れ替わり、放射線を出して周囲の細胞や遺伝子を傷つけるほか、徐々にヘリウムの同位体に変わることによって染色体などの高分子結合そのものを破壊する。その結果、さまざまな疾病が起きることになる。

健康被害はある

 原発の運転中に発生するトリチウムは政府の告示濃度限度(1gあたり6万ベクレル)以下に薄めて放出されている。だが、そうした「実績」があることがトリチウム水の安全性を保証することにはならない。

 現に、トリチウムを大量に放出している原発が立ち並ぶカナダのヒューロン湖やオンタリオ湖周辺では、小児白血病、ダウン症、新生児死亡などの増加が報告されている。日本でも、トリチウム放出量が多い佐賀・玄海原発や愛媛・伊方原発の周辺で白血病死亡率や循環器系疾患が増えている。最近、玄海原発の西北沖にある壱岐市(壱岐島)で白血病死亡率が「原発稼働後、約6倍に増加している」ことが地方紙で大きく取り上げられている(2019年3月1日付壱岐新報)。

 仮に薄めたとしても、トリチウム汚染水を海洋放出すれば、メディアなどの言う「風評被害」だけでなく、福島県やその近辺で現実の健康被害が発生する危険性は十分ある。

福島県民は反対7割

 こうした危険性は政府も承知の上だ。それでも海洋放出を急ぐのは、処分にかかる費用が格段に安いこと、そして東京オリンピックを前に処分方法を決め原発事故を過去のものと宣伝するためにほかならない。

 ただ、提言は一方で、処理汚染水を海洋放出した場合、「社会的影響は特に大きくなると考えられる」と明記し、小委員会の山本一良委員長は「処分を急ぐことで風評被害を拡大してはならない」と、政府に釘を刺さざるを得なかった。

 もともと昨年2月に朝日新聞社と福島放送が実施した福島県民世論調査では、67%が「処理水を薄めて海へ流すこと」に反対していた。今回の提言を受けて、福島県漁連の野崎哲会長は「福島の漁業の回復は、海洋放出が無いという前提で動いている。提言がまとめられても、反対の立場に変わりはない」(2/1朝日)と述べた。大井川和彦茨城県知事も「結論ありきの取りまとめを行うことは容認できない」として、「さらなる検討」を強く求めた(2/4知事談話)。

 市民団体からは石油備蓄船(1隻で88万立方b貯蔵)の活用や大型タンク(10万立方b)への移し替え、モルタル固化による長期保管案も提案されている。また、近畿大によるトリチウム除去技術の研究も進んでいる。

 健康被害が明らかなトリチウム水の海洋放出を許してはならない。








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