2020年02月28日 1614号

【新型肺炎 医師が過労死の中国/医療者の献身頼みの日本】

 2月3日、中国で新型肺炎対応の医師(27歳)が急死した。連日の検疫・医療物資管理による過労死と報じられている(2/4共同)。武漢市の病院は人手不足で医療従事者は「自ら点滴を打って昼夜2交代勤務を続けている」(2/3東京新聞)という医療態勢崩壊状態だ。

 では、国内感染が顕在化してきた日本ではどうか。

 安倍首相は、クルーズ船隔離者対応に「災害時のDMAT(災害派遣医療チーム)の仕組みも活用し、医師の派遣も迅速に」とした。

 災害時、DMAT(厚労省所管)は緊急展開し、その後JMAT(日本医師会が組織)が引き継ぐ。だがどちらも専従ではない。日常は所属する医療機関で激務をこなす医療労働者だ。日本政府の災害医療は医療労働者の「献身」頼みだ。

疲弊する医療現場

 医療費抑制政策の下、日常の医療現場は過酷だ。

 例えば、勤務医。労働時間は他産業に比べ著しく長い。過労死水準とされる80時間/月以上の医師は66%、厚労省が「極度の長時間労働」とする160時間/月は27%に上る。その実像もわずかながら明るみになっている。医療保健業の労働基準法違反是正勧告は年間1200件〜1600件で推移している。「ゼイタクはいらない、普通の人間の生活がしたい」と書き残し自死した産婦人科医を広島地裁は過労死と認定。この医師は12日連続勤務後1日空けて20日連続という過酷な勤務をしていた。新潟市民病院の過労死では時間外勤務4か月連続200時間/月超も。開業医の労働実態も診療所によっては勤務医以上に深刻だ。

 元凶は総医療費抑制の国策による医師不足だ。日本の医師数はOECD(経済開発協力機構)36か国中32位(図)。しかも勤務医1人当たりの入院患者数は米国の5倍、外来患者数は4・5倍に上る。



 だが安倍は「働き方改革」と称して、勤務医の残業上限を原則960時間/年、特例1860時間/年とし、過労死ライン超の労働時間を追認した。

 政府は「医療費亡国論」を唱え医学部定員を削減することで医師数を減らしてきた。定員はその後微増したが、2022年以降、再び削減する方向だ。国立感染症研究所の予算も人も大幅に削減してきた。感染症対策に「献身」のみ求める図々しさだ。

軍事ではなく医療を

 グローバル資本主義の下で、人・モノの移動に国境はない。感染症もしかり。だが安倍は気にもとめない。中国政府は10日余りで3400床の施設を建設したが、日本政府はクルーズ船下船者の滞在先確保に四苦八苦だ。中国政府が武漢に投入した6000人の医療従事者数は、東日本大震災時にJMATが半年間に派遣した延べ人員に匹敵する。武漢市の医療態勢崩壊≠ヘ対岸の火事ではない。

 である以上、ありもしない「戦争の危機」のために毎年5兆円も軍事費につぎ込まさせてはならない。目の前にある危機=市民の命に直結する医療態勢崩壊の回避を最重要課題として進めることが急務だ。
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