2020年02月28日 1614号

【「2020年 年金0・2%アップ」も 実質0・3%マイナス/「マクロ経済スライド」って? しらっと年金削ること】

 安倍政権は言い換えやネーミングで物事の本質を隠そうとする。たとえば、武器輸出を「防衛装備移転」と言い換え、解禁した。「マクロ経済スライド」も年金の自動削減をごまかすためのものだ。「マクロ経済スライドを導入したから100年安心」と説明されると、なぜか削減への怒りが弱まる。「マクロ経済スライド」とはどんなものなのか。

スライド調整が元凶

 厚生労働省の説明を見よう。「(公的年金財政の)収入の範囲内で給付を行うため、『社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化』と『平均余命の伸びに伴う給付費の増加』というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組み」

 何のことだか、すぐには理解できない。言い換えればこうなる。

 「公的年金制度を支える力の変化」とは、保険料を負担する現役世代が減っていくということ。「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」は受給する人数と期間が増えていくということだ。つまり、「払われる保険料が減り、支給する額が増えていくので、自動的に支給額を減らす仕組み」を考えたということだ。

 「年金を100年維持するため」と称し、毎年支給額を減らす率を決める。平均余命が伸びる分として毎年0・3%減、現役世代人口が減少する分は過去3年の平均を計算して決める。年金生活の水準を維持するためには、物価や賃金上昇に応じて支給額も引き上げる必要があるが、「スライド調整」はこれをやめることを意味する。具体的に見よう。

 厚労省は1月24日、2020年度の年金支給額を0・2%引き上げると発表した。その計算はこうだ。物価上昇率0・5%、名目賃金は0・3%。上昇率の低い方を使うとしているため、名目賃金分が引き上げのベースとなる。これに「調整」を加える。平均余命分の0・3%減に現役世代分は0・2%増となったため、スライド調整率は0・1%減。ベースの0・3%増を「調整(削減)」し、0・2%増とする。

 物価0・5%上昇に対して年金は0・2%しか増えない。つまり、実質0・3%減ということだ。


影響は深刻

 マクロ経済スライドの仕組みが導入されたのは04年。賃金が上がらない中で保険料の引上げが続くと現役世代の不満が高まる。そのため、保険料を固定化し給付を抑制することにした政府は、給付額を機械的に削減する仕組みを導入したのだ。そもそもこの発想が間違いだ。「文化的で最低限度の生活ができる」権利保障という観点はまったくない。

 実際には、賃金・物価が下がった年は「調整」を控えたため、実施されたのは15年、19年(18年先送り分含む)、そして20年の3回。合計1・5%減額されている。この「調整」は23年に終了するはずだった。ところが、5年ごとの年金財政検証で先送りされ、昨年の検証では最短でも46年度まで続くとしている。さらなる先送りが予想される。

 この仕組みで深刻な影響を受けるのが個人事業主など国民年金に頼る低年金者だ。昨年の財政検証では、47年度の年金水準の低下の度合いは厚生年金では約2割だが、国民年金は約3割下がるとしている。

 年金だけでは生活できない人は生活保護に頼らざるをえなくなる。つまり「年金財政の問題を生活保護制度に押しつけるものであり、年金財政の安定性と引き替えに、生活保護制度がなし崩し的に機能不全になる」(駒村康平『日本の年金』岩波書店)と指摘される事態が確実に進行していく。

 年金制度も生活保護制度も崩すマクロ経済スライドは廃止し、生存権を保障する最低保障年金制度を創設すべきである。
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