2020年02月28日 1614号

【未来への責任(292)/「ボール」は日本側にある】

 元徴用工らへの損害賠償を日本製鉄に命じた韓国大法院判決(2018年10月30日)に対し、安倍政権は「国際法上ありえない。日韓関係を根本から揺るがす判決であり、韓国政府の責任で問題を解決せよ」と非難を繰り返し、韓国で賠償判決を受けた企業にいまだ「実害」が及んでいないにもかかわらず「経済報復措置」を発動した。このため韓国世論が一気に悪化し、日本製品の不買運動、日本への渡航自粛などが続き、日本経済に深刻な影響を与えている。そして安全保障分野のGSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)にまで問題は波及した。

 そんな中、昨年12月に文喜相(ムンヒサン)韓国国会議長が解決策として日韓の企業と民間から寄付金を募り、被害者救済のための財団(「記憶・和解・未来財団」)を設立する法案を国会に提出した。「韓日首脳間の謝罪と許しがなければこの法案もない」と説明されたが、内容が日本政府の責任を「免罪」するもので、被害者らの代理人弁護士、日韓の支援団体が反対の声を上げた。

 その後今年1月に、日韓の弁護士と支援団体が「強制動員問題の真の解決に向けた協議」の呼びかけ文を発表した。「強制動員問題には労務強制動員問題(いわゆる徴用工問題)の他に軍人・軍属として強制動員された被害者の権利救済の問題(軍人・軍属問題)も含まれ、強制動員問題全体を最終的に解決するためには軍人・軍属問題も含めて解決構想が検討されなければならない」「労務強制動員問題の本質は被害者個人の人権問題であって、いかなる国家間合意も、被害者が受け入れられ、国際社会の人権保障水準に即したものでなければ真の解決とはいえない」「解決構想の検討過程に被害者の代理人などが主体のひとつとして参加するなど、被害者の意向が反映できる機会が保障されなければならない」とした。そして(1)加害者が事実を認めて謝罪(2)謝罪の証としての賠償(3)事実と教訓の次世代への継承、の3つの条件を充たす解決案構想をまとめるための「協議体」設立を呼びかけた。

 今年の年頭記者会見で文在寅(ムンジェイン)大統領もこの「協議体」に参加する意向を表明し、「被害者の同意なしには韓日の政府間でいくら合意しても問題の解決に役立たないということを私たちは“慰安婦合意”の時に切実に経験したところである」と述べ、「被害者中心のアプローチ」がなければ問題は解決しないとの考えを改めて示した。

 解決の「ボール」はいま日本側に投げられている。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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