2020年03月06日 1615号

【テレ朝「報道ステーション」を問う緊急集会/社外スタッフ「契約終了」はなぜ/「まるで使い捨て」「知る権利奪う」/安倍そんたくで進む番組の変質】

 日本の報道番組を代表するテレビ朝日「報道ステーション」で異常な事態が起きている。長年、取材・制作を担ってきた派遣ディレクターら十数人が3月末限りの契約終了を通告されたのだ。MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)は2月13日、「報ステ」を問う緊急院内集会を開いた。

番組支えたスタッフが

 契約打ち切りを告げられたのは、いずれも10年前後「報ステ」のニュース担当ディレクターを務め、中東情勢や沖縄の基地問題、原発、災害・事件報道などに精通する社外スタッフ。番組のまさに中核を担ってきた、日本のジャーナリズムを体現する人たちだ。

 集会ではMIC議長の南彰・新聞労連委員長が経過を報告した。

 発端は昨年8月、桐永洋チーフプロデューサーによる社外スタッフを含む複数の番組関係者の女性に対するセクハラの発覚。早河洋テレ朝会長は「再発防止を徹底する」と述べたが、処分は「3日間出勤停止」にとどまった。スポンサー企業からも批判が寄せられる中、テレ朝のとった対応が突然の社外スタッフへの契約終了通告だった。

 理由をテレ朝は「体制刷新」「番組リニューアル」のため、とする。だが、リニューアルの中身の説明はない。MIC加盟の民放労連に所属するテレビ朝日労組との交渉で、次の職場の確保などを約束したものの、今も多くの人の行き先が決まっていない。

 南さんは契約打ち切り対象者の声を紹介した。

 「きょう何を伝えるべきか、時に闘いながら放送してきた。そうした現場スタッフの姿勢を否定し、ひいては視聴者の知る権利を奪うもの」「少しでも社会がよくなればと、10年以上尽くしてきたのにまるで使い捨てされたよう」「基本給も社員と雲泥の差があり、残業代も出ない中、日本で一番見られている報道番組との自負で頑張ってきた。自分たちの契約状況が脆弱だと思い知らされた」

 テレ朝社員からも「番組は人。人材がいなければ日々のニュースは成り立たない」「『番組の方向性が間違っているのでは』と思っても、発言を控えるかもしれない」「今後発信する労働関連の報道で自らの首を絞める行為」「矜持(きょうじ)を正すべき報道人がテレビ局という権力を前に口を閉ざしている。あり得ない」といった声が寄せられている。

国会報道が半減

 事実、番組自体の変質も進みつつある。国会報道を例にとると、昨年は通常国会が始まってから11日間で60時間以上費やしたが、今年は「桜を見る会」をはじめ多くのテーマがあるにもかかわらず30時間あまりと半減した。

 リレートークでは、多くの発言があった。

 「報道は民主主義社会の動脈。重層的な下請け関係や派遣が暴力と恐怖による支配の装置になっているなら、なくさなければならない」と訴えたのは、弁護士の中野麻美さん。元朝日新聞記者の山田厚史さんも「実際に番組を作るのは下請けの人たち。テレ朝『サンデープロジェクト』の女性プロデューサーは『リストラって全部私たちに回ってくる。あれもこれも切られ、受け入れるしかない』と言い、体を壊して自死された」と明かす。JILPT(労働政策研究・研修機構)研究員の内藤忍(しの)さんは「セクハラ告発に対する不利益取り扱い禁止が法的義務になったきっかけが、財務省事務次官によるテレ朝女性記者セクハラ事件。禁止規定は社外の労働者にも準用される」と指摘した。

局幹部と政権の意向

 元TBSキャスターの杉尾秀哉参院議員は警鐘を乱打する。「政治ニュースは扱わない、もっとカネが稼げる番組にしろ―これがテレ朝幹部の意向。ドンの早河会長と番組審議会委員長の幻冬舎・見城徹社長と安倍総理という関係がある。残るターゲットはTBSしかなくなる」

 「報道の自由を守れる働き方を取り戻そう」とメッセージを寄せたのは、元朝日新聞記者の竹信三恵子さん。TBSキャスターの金平茂紀さんはビデオメッセージで「筑紫哲也ニュース23の編集長をしていた95年9月、報ステの前身ニュースステーションが沖縄の米兵少女暴行事件を報じた。見ていた筑紫さんが『君は一体何を取材しているんだ』と怒りをあらわに。僕らJNN系列はきちんと取材していなかった。メディアをめぐる状況は暗黒の時代。といって沈黙は一番いけないことだ」と語る。

 集会は「日本のジャーナリズムを担う報道スタッフを守ろう」との集会宣言を採択。同宣言はテレビ朝日と報ステのスポンサー企業に送付される。

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