2020年03月13日 1616号

【新型コロナウィルス感染拡大をどうみるか 「休校」要請に科学的根拠なし 健康と生活のための医療充実を 医療問題研究会 林敬次さんに聞く】

 政府の新型コロナウイルス対策は場当たり的で信用できない。何が問題なのか。小児科医で、インフルエンザ「特効薬」と宣伝されたタミフルが効かないことを暴いた医療問題研究会の林敬次さんに聞いた(3月2日、まとめは編集部)。

新型コロナウィルスとは

 今回の新型コロナウイルスで押さえておくべき基本的な問題は、この病気の程度と広がりです。

 なぜなら、2009年に世界に広がった通称「豚インフルエンザ」は、当初大変怖いものと大キャンペーンされましたが、実際その死亡率は毎年のインフルエンザ程度でした。結局「恐怖」が利用され、効かないワクチンやタミフルの製薬・検査企業に今も巨大な利益を与え続けていることがあるからです。

 さて、コロナウイルスは元々カゼ症状を引き起こすだけのウイルスでした。ところが03年に急激に肺炎などを起こして10%近くが死亡するSARSという病気が現れました。その原因がコロナウイルスの1種でした。その後、それと似たMERSという致死率30%ほどの病気もそうでした。

 では今回の新型コロナウイルスはどうでしょう。

 鼻や喉だけでなく肺に侵入しやすく、高齢者はもちろん健康な壮年も肺炎やショック、人工呼吸器が必要となるなどの重症になりやすい特徴があります。

 感染者に対する死亡率(感染者数のうち死亡者数の割合)は、WHO(世界保健機関)の3月1日の発表で、中国、日本、韓国、イタリアではそれぞれ3・6%、2・1%、0・5%、2・6%、同様に重症者比率が、9・2%、8・3%、0・3%、9・3%(図)。インフルエンザよりもかなり高い死亡率の感染症です。急速に広がれば中国・武漢市のように医療、社会が麻痺してしまう可能性が大きい危険なものです。

 SARS、MERSと違い感染しても症状がない人や軽症の人が多々います。そのため、わからないうちに感染し拡散します。

 しかし、最新の検査を駆使した対策により、感染者の特定とその人たちへの対処の仕方で拡散を食い止められる可能性があります。

検査の遅れと感染拡大

 705人(2/27現在)の感染者を出したダイヤモンドプリンセス号では、的確な検査や感染者隔離がなされなかったことなど対処のずさんさや失敗が感染症学者からも告発されています。

 この「ずさんさ」は、2月25日に出された政府の「対策基本方針」にも見られます。

 同方針の現在の重点は、国内の感染者の集団「クラスター」が次の「クラスター」を生み出さない対策です。これは現段階でまず必要なことです。そのためには感染発生源の解明、その周辺の感染者の発見とそこからの感染拡大の防止が基礎になると思われます。PCR検査という大変鋭敏なウイルス検査を感染者集団の周囲で迅速に幅広く行うことが、感染者を発見するために不可欠です。

 しかし、実態は違いました。チャーター機、ダイヤモンドプリンセス号を除く国内での検査は、厚労省発表によれば2月29日段階でわずか1510人でした。一方、和歌山県では、2月13日の医師の感染確認以後、25日までで698人を検査、13人の陽性者を確認しています。検査キットは中国から国立感染症研究所に提供された分だけでも1万2500人分ありました。また、韓国では検査人数はすでに10万5千件(3/2現在)を超えているのです。日本では検査を怠ってきたとしか考えられません(表)。

 専門家会議を受けた対策に不可欠な検査を迅速に実施していないのは、政府が実際の感染者数を隠そうとしているからではないでしょうか。


深刻な感染症対策不足

 政府は、「感染がより広まれば患者は一般病院で診る」との方針を出しました。それもそのはず、難しい感染症を扱う感染症病棟は、日本全体でたった410病院1871床、東京都では20病院118床にすぎないからです。

 ところが現在、一般病院は病床数に対する患者数が95%以上と求められるなど、ぎゅうぎゅう詰め。詰め込まないと経営が成り立たないからです。極めて強い感染力をもつ患者など受け入れられません。

 死亡率と重症者率の高い新型コロナウイルスが蔓延すれば医療機関は完全に麻痺します。感染症対策ができる設備と人員配置などができるように医療機関への強力な財政的支援が緊急に必要ですが、その具体案は何ら示されていません。

 対策のために、安倍政権が投入するのは予備費153億円。批判に慌て追加を表明したもののシンガポールの対策費5千億円と比べてあまりに貧弱です。

企業優先でなく命を守る

 他方で、新型コロナウイルスの薬開発として、副作用のためにほぼお蔵入りしている抗インフルエンザ薬「アビガン」などの臨床実験を始めました。中国はすでにWHOとタイアップして科学的方法で多くの薬剤を臨床実験中です。日本の具体的な内容は不明ですが、自国の企業優先であり、患者優先とは思えない薬剤の選択です。しかもその患者にも役立たない臨床実験の対象となる可能性があり、監視が必要です。

 2月28日、安倍首相は突然全国の小中高校、特別支援学校に3月2日から春休みまでの休校を「要請」しました。

 毎年のインフルエンザでも、患者もいない地域での効果は世界的にもまったく検証されていません。科学的根拠のない今回の休校は、専門家会議の岡部信彦委員など多くの専門家が厳しく批判しています。政治的パフォーマンスでしかありません。

 さらに安倍は、そのどさくさに「緊急事態宣言」の法律化まで狙っています。市民の健康と生活より、自らの政治目的と企業の利益を優先させる政治をこれ以上続けさせてはなりません。

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