2020年03月13日 1616号

【「ジョブ型雇用」拡大打ち出す経団連/「短期使い捨て」の願望隠さず】

資本に呼応する労組

 経団連中西宏明会長(日立製作所会長)は昨年12月23日の定例記者会見で「雇用制度全般を見直し、雇用流動化とジョブ型雇用の拡大が必要」と訴えた。

 ジョブ型雇用とはどういう雇用か。「ジョブディスクリプション(職務記述書)で職務や勤務地、労働時間などを明確に定めて契約を結ぶ雇用」だという。これだとどうなるか。「労働者は特定の仕事(ジョブ)を得るという意識で働く。給料は仕事の内容によって定められるため、所属する会社でのキャリアアップや昇給はない。そのためキャリアアップには転職が伴う」。要は労働者を短期使い捨てにできる雇用形態のことだ。資本はこれを「人材の流動性」と、いかにも自分に都合よく呼んでいる。

 中西の発言は、資本家側の春闘方針である「2020年版経営労働政策特別委員会報告」(1月21日)の中に明確に位置付けられた。

 「日本型雇用システムは転換期を迎えている」として「新卒一括採用は中途採用を抑制し、労働市場の流動化を阻害している。そのため、ジョブ型雇用が広がらない。年功型処遇が同じ企業で働き続けようという志向を強め、転職の阻害要因となっている」。同じ職場で働き続けることは何か悪いことでもしているかのような言い方だ。資本は結局何がしたいのか。「ジョブ型雇用を拡大し、これらの労働者には裁量労働制や高度プロフェッショナル制度を適用していく」。定額使い放題、2年で機種変更。携帯電話扱いではないか。

 あまりに身勝手な経団連の指針なのだが、自動車各労働組合が呼応し始めているから問題は一層深刻だ。「大変革期、会社支える」とするトヨタ労組は給与を月額1万1千円の引き上げを求める一方で、ベアについて人事評価に応じて差をつける新たな方法を提案。ホンダ労組は「新たな仕事に挑戦した社員に賃金を上乗せする制度の拡充を求める」としている。

25年前の方針進める

 経団連が「転換が必要」とする「日本型雇用システム」。その特徴とされる年功序列賃金も終身雇用もとっくの前に解体されている。それを象徴的に見せたのが08年秋のリーマンショックと年越し派遣村だった。格差問題は貧困問題だった。派遣村に集まった労働者の姿を通して非正規と正規という雇用形態の違いが「身分格差」となっていることを社会に知らしめた。

 今から25年前の1995年、経団連の前身である日経連が『新時代の「日本的経営」』の中で3つの雇用形態を示している。「雇用は好むと好まざるとにかかわらず、流動化の動きにある。…今後の雇用形態は、長期雇用という考え方に立って企業としても働いてほしい、従業員も働きたいという長期蓄積能力活用型グループ、必ずしも長期雇用を前提としない高度専門能力活用型グループ、働く意識が多様化している雇用柔軟型グループに動いていくものと思われる」。まるで自然の成り行きであるかの表現を使いながら、資本の願望を打ち出したものだった。

 真っ先に進んだのが「雇用柔軟型グループ」。いわゆる非正規化だ。派遣労働を解禁し、派遣法の改悪に次ぐ改悪を重ねた。いまや4割を超える労働者が非正規にされてしまった。

 図を見ると、女性は35歳以上はすべて半数以上が非正規雇用。男性では65歳以上で7割以上、55〜64歳では3割が非正規だ。25〜34歳では14・4%とさほど高くはないが、年を追って非正規雇用の割合が増加傾向にある。

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 一方、男性35〜54歳は非正規率が10%未満で横ばいが続いている。経団連中西のいう「ジョブ型雇用」のターゲットはこの年代層だ。普通の正社員を「高度専門能力活用型グループ」として、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度など実質労働時間無制限の状態にして、流動化(解雇の金銭解決ルールの導入もその一つ)させるというのである。

 経団連は、25年前に示した方針通りの労働力政策を完成させようとしている。一握りの高級幹部社員以外は非正規化され、過労死か貧困かの選択を迫られる。究極の雇用破壊攻撃を許してはならない。

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