2020年03月13日 1616号

【国家権力の私物化きわまる/「検事長定年延長」のデタラメ/安倍のゴリ押しで法治国家崩壊】

 世間の関心が新型コロナウイルスの感染拡大に集中する中、法治国家の根幹を揺るがす問題が浮上している。安倍政権がお気に入りの法務官僚を検察のトップに据えるために法律で定められた定年を勝手に延長した一件だ。こんなことが許されるなら、この国は本当に安倍の「私物」にされてしまう。

番犬を検察トップに

 黒川弘務・東京高検検事長を検事総長に据える―。安倍官邸の計画は「公然の秘密」だった。御用メディア筆頭の読売新聞はこう報じている。「政府関係者によると、次期検事総長の人選は、昨年末から官邸と法務省との間で水面下で進められた。同省から複数の候補者が提案されたが、安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示したという」(2/21)

 官邸がゴリ押しする黒川検事長とはどのような人物なのか。1983年、検事任官。小泉政権下で法務大臣官房参事官を務めて以降、官房畑を歩み、自民党・清和会(安倍晋三首相らの出身派閥)に非常に太いパイプをもっている。菅義偉官房長官とは特に親しいという。共謀罪法案の成立などに奔走した黒川を菅は高く評価。官房長を異例の5年間も務めさせたうえに、2016年には法務事務次官に抜擢した。

 そんな黒川は「安倍政権の番犬」「官邸の門番」との異名を持つ。官房長や事務次官として検察の事件捜査に圧力を加え、甘利明経済再生相(当時)の口利きワイロ事件や森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん事件を不起訴処分にしてきたからである。

 安倍政権の不正をことごとく隠蔽してきた黒川を検事総長にすることは、官邸による検察支配の完成を意味する。カジノ汚職や「桜を見る会」の問題で捜査の手が政権中枢に及ぶこともなくなるというわけだ。

支離滅裂な弁明

 とはいえ、黒川の検事総長就任には大きなハードルがあった。今年2月8日に63歳となった黒川は本来、定年による退官を迎えるはずだったのだ。

 検察庁法は検事総長の定年を65歳、その他の検察官の定年を63歳と定めている。強大な権力を持つ検察官は政治的に中立でなければならない。だから、時の政権が恣意的な人事を行えないように、例外なき定年ルールが設けられている。

 ここで黒川が退官すればすべてがパー。そこで官邸はなりふり構わぬ手段に打って出た。閣議決定(1/31)によって黒川の定年を延長し、検事総長就任への道を開いたのである。

 森雅子法相は「国家公務員法の定年延長規定を適用した」と説明する。だが、国家公務員に定年制を導入した際に、人事院は「検察官には適用されない」と明確に答弁していた(1981年)。以降30年以上にわたり、一度の例外も認めることなく、この政府見解は維持されていた。

 このことを野党に指摘されると、政府はちゃぶ台返しをくわだてた。安倍首相が2月13日の衆院本会議で「検察官の定年延長に国家公務員法の規定が適用されることと解釈することにした」と語ったのである。この答弁につじつまを合わせるためのドタバタ劇は別表に示したとおり。



 メディアは「その場しのぎで支離滅裂な政府の対応」(2/26朝日社説)を厳しく批判している。「官邸の専横や脱法的な行いが答弁の破綻を招き、責任を押しつけられた官僚は、虚偽の説明や文書の隠匿、果ては改ざんにまで手を染める。現政権下で何度も目にしてきた光景だ」(同)

 憲法学者や政治学者などで作る「立憲デモクラシーの会」は2月21日、「ときの政権の都合で、従来の法解釈を自由に変更してかまわないということでは、政権の行動に枠をはめるべき法の支配が根底から揺るがされる」とする抗議声明を発表した。

 日本国憲法は内閣に「法律を誠実に執行」することを求めている(第73条)。国会で可決した法律の解釈を政府が勝手に変えることは憲法に違反する。唯一の立法府である国会の否定であり、三権分立を破壊する暴挙なのだ。

政府の嘘は命の問題

 検事長の定年延長、「桜を見る会」の私物化、森友・加計事件、労働法制の改悪、集団的自衛権の行使容認…。これらの事象の根は同じだ。安倍政権の都合に合わせて原理原則がねじ曲げられ、倫理観なき忖度マシンと化した官僚組織が唯々諾々と受け入れる。

 その被害をこうむるのは私たち市民である。新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる大混乱がまさにそうではないか。安倍首相とその取り巻き連中による私物化が進んだ結果、この国のシステムはまともに機能せず、人びとの健康・安全を守れなくなっている。政府の嘘は万人の命にかかわる問題なのだ。   (M)



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