2020年03月20日 1617号

【偽りの復興、実態は棄民/福島原発事故から丸9年/資本のためではない、民主的復興を】

 福島原発事故から3月11で丸9年を迎え、10年目に入る。国や福島県が声高に唱える「復興」の現状を検証する。

 2019年12月4日、会計検査院は、福島復興再生特別措置法に基づく事業やそこでの予算の使われ方について、報告「福島再生加速化交付金事業等の実施状況について」を公表した。見えてくるのは福島の「人間なき、ハコモノだけ復興」の実態だ。

 報告書を見ると、災害公営住宅整備事業、交通安全施設等整備事業、公立学校施設整備費国庫負担事業、認定こども園整備事業、廃棄物処理施設改良・改修事業、原子力災害被災地域産業団地等整備等支援事業ーーと、ハコモノ建設ばかりが並ぶ。このうち災害公営住宅整備事業には、2017年度末時点で1872億円(うち復興公営住宅に1529億円)もの巨費が投じられている一方、モニタリングポスト(空間線量測定装置)設置用の予算「放射線測定装置・機器等整備支援事業」では4億3千万円しか予算執行されていない。しかもこれは2017年度までに執行された累計額だ。「復興」が始まった2012年度から6年間でこの額だから、単年度で見るとたったの7200万円。いかに日本政府が「人間」を軽視しているかがわかる。これでは棄民政策といわれて当然だ。

県外避難者は無視

 都内の国家公務員住宅に住む福島からの区域外避難者に、福島県は毎月執拗に「家賃2倍請求書」を送付し、嫌がらせを続ける。報告書からは「東日本大震災特別家賃低減事業」という項目があり、予算交付ができる仕組みになっていることがわかる。だがこの制度は福島復興再生特別措置法に基づく「帰還環境整備」事業の一部であり、福島に戻る人や県内避難者しか利用できない。

 それを象徴するように、報告書ではこの事業の予算交付額が空欄のままになっている。空欄は「県からの要望がなかった」ことを表すものだ。家賃補助を切実に願う県外避難者は政策的、意図的に無視し、政府が県外避難者を帰還させるために創設した家賃補助制度はまったく利用者がいない。「ニーズあるところに政策なく、政策あるところにニーズなし」の実態が報告書から浮かび上がった。

 復興公営住宅についても、報告書は空室率が13%とほぼ6分の1弱に上り、「入居者の転居等に伴い定期的に入居者を募集しても空室が解消されない状況にある」と指摘する。一方で、岩手、宮城、福島3県ではプレハブ仮設住宅に709人(今年1月末現在)が今なお残る。復興公営住宅に移りたくても、経済的に困窮し、その家賃すら払えない被災者がいるのだ。

「人」にカネ使わず

 2019年春、モニタリングポスト撤去の動きが表面化した。反対する福島住民によって「モニタリングポストの継続設置を求める市民の会」が結成された。撤去反対の動機は「自分の目で数字を見て安心したい」「廃炉作業終了まで設置を継続してほしい」。福島で暮らす以上どれも当たり前すぎる要求だ。「市民の会」が呼びかけた撤去反対の署名は県内外から3万5千筆が集まり、原子力規制委員会はいったん決めた2020年度末での撤去を撤回した。

 規制委は、モニタリングポスト撤去の提案理由として「予算確保が難しい」を挙げていたが、報告書にはこうした主張を覆す内容が並ぶ。規制委にモニタリングポスト予算として802億円が交付されたが、その執行率はわずか49.2%。半分以上が「不用額」(使い残し)で482億円もある。モニタリングポストを670年間も設置し続けられるほどの額だ。

 グローバル資本が儲かるハコモノ建設には使い切れないほどの巨費を投じる。家賃補助制度を使いたい人は使えない一方、国が使ってほしいと思っている人からは相手にされず予算が宙に浮いたまま。モニタリングポスト設置の金がないと言いながら、一方で巨額の金を使い残している規制委ーー。こんな歪んだ復興政策は明らかにおかしい。被災者を中心として「人間」に直接恩恵を行き渡らせる復興政策に、今すぐ転換する必要がある。

コロナも原発も同じ

 拡大する一方の新型コロナ対策でも安倍政権の棄民政策は際立っている。韓国ではPCR検査件数が9万3千件以上に達しているのに、日本はわずか1380件(2/28現在)。国立感染症研究所は医療機関にも重要な情報を与えず「重症患者以外は医療機関に来るな」と繰り返すが、実際には重症患者でさえ検査を拒まれたとする多くの声が上がっている。厚生労働省は「医療機関の受け入れ態勢が整わない」と言い訳をするが、そもそも地方の病院を名指し、「非効率」と決めつけて統合・再編を要求してきたのは厚労省だ。医療を破壊し大量の検査難民を生み出した厚労省の責任こそ追及する必要がある。

 「調べない、数えない、助けない」ーーそんな国の姿勢を「福島原発事故と同じだ」と批判する声が原発事故避難者からも上がる。そもそも国立感染症研究所の前身、国立予防衛生研究所(1947年設立)には旧日本軍出身者が多かった。初代から8代目までの所長のうち6人は旧軍出身者。中国で人体実験を繰り返し、治療はせず、情報隠ぺいを続けてきた旧日本軍731部隊に代表される犯罪的伝統が厚労省に引き継がれているのだ。

旧日本軍の亡霊たち

 子どもたちに被ばくを避ける措置を怠り、無用な被ばくをさせた責任を問うため、福島県民や避難者が国と福島県を相手に提訴した「子ども脱被ばく裁判」。事故直後の福島で「年間100ミリシーベルトの被曝までは安全」「ニコニコ笑う人に放射線は来ない」などと低線量被ばくの影響を無視する放言を繰り返した山下俊一・福島県立医科大副学長への証人尋問が3月4日に行われた。

 山下の「師」にあたる故・重松逸造元放射線影響研究所理事長は、かつて自身を「731部隊の雇われマダム」だと、新聞紙上で発言している。原発事故被害者、コロナ被害者の背後に旧日本軍の亡霊がちらつく。戦争責任を否定し、差別排外主義政策を続ける安倍政権。9年目の3・11から見える日本の縮図だ。



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