2020年03月20日 1617号

【新・哲学世間話(16) サンダース支える若者 田端信広】

 米大統領選の民主党候補者争いはまだ序盤とはいえ、これまで、民主主義的社会主義者を自称するバーニー・サンダースが大躍進している。彼を有力候補に押し上げているのは、若者たちだと伝えられている。

 若者たちはなぜ彼を支持しているのか。その理由の一つが、サンダースが「州立大学の授業料の無償化」を公約に掲げている点であることは間違いない。

 アメリカの大学は私立大学と州立大学に大別される。ハーバードやスタンフォードなどの有名私立大学の授業料がべらぼうに高いのはよく知られている。年間授業料は450〜500万円ほどもする。では、州立大学は安いのかというと、そうでもない。州ごとに額は異なるが、年間授業料は、州内住民の場合おおむね150万円、州外住民はその倍額ほどである。

 だから、学生は卒業直後から、いきなり500万円を超える学費ローンを抱え込むことになるのである。こうして、この法外な授業料は若者たちを悲惨な状況に追い込んでおり、授業料問題は彼らにとって文字通り死活問題になっている。若者たちはこの理不尽な状況に怒り、状況転換への希望をサンダースに託しているのである。

 では、日本の状況はどうか。現在、いわゆる国立大学の授業料は一律約54万円、初年度の入学金28万円を合わせて、約80万円である。私立大学の場合、理系・文系で異なるが、入学金を合わせると100万円を超える場合が多い。

 だが、筆者の学生時代、1960年代末から1970年代初め頃、国立大学の年間授業料は1万2千円であった。下宿生であった筆者の月額生活費は2万5千円。つまり、学生の月額生活費の半額相当が年間授業料であったのである。当時と現在とでは、たしかに生活費も5倍ほど膨らんでいる。しかし、授業料のほうは50倍にもハネ上がっているのである。これは、この間の断続的な授業料値上げがいかに理不尽であったかを物語っている。

 日本でも、教育における国民収奪というべきものに歯止めをかけねばならない。ところがそれに逆行するように、最近文科省は、原則一律である国立大学の授業料の「自由化」を検討しているという。期待を込めて言うならば、日本でも若者たちの怒りを結集して、「日本のサンダース」を作り上げるしかない。

  (筆者は元大学教員)
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