2020年03月27日 1618号

【被ばくさせたのは誰の責任か/安全キャンペーンの山下証人を追及/7月結審へ 子ども脱被ばく裁判】

 3月4日、「子ども脱被ばく裁判」第26回口頭弁論が福島地方裁判所で行われた。雨の中、100人を超える支援者が集まった。

嘘は許されない

 裁判最後の証人は、事故当時の福島県放射線健康リスク管理アドバイザーであり、県内各地で「安全安心」宣伝を行った山下俊一福島県立医科大学副学長。「安全キャンペーン」を象徴する専門家として、原告らが2年以上前から証人申請し、ついに実現させた。

 井戸謙一弁護団長を先頭に、山下証人が事故直後の2011年3月21日、福島市内で500人近くの聴衆の前で発言した「ニコニコする人には放射能は来ない。クヨクヨしていると放射能が来る」という“ニコニコ発言”と「年100_シーベルト以下では健康被害はない」と断じた発言から尋問。

 山下は「会場が過度に緊張していたため、緊張を解くために言った」「100_シーベルト以下でも、発がんリスクはよく分かっていない」と、事故当時とは異なる見解を述べ苦しい弁明。弁護団の追及に「不快にさせた方には誠に申しわけないと思う」と口にし、一部の発言の誤りを認めた。

甲状腺がん多発なお否定

 一方で山下は、小児甲状腺がんの増加について、行われた手術は過剰診断ではないとし、あくまで「多発ではなくスクリーニング効果である」と強調した。

 この多発問題では、先立つ2月14日第25回期日で弁護団が福島県立医科大学教授の鈴木眞一証人を追及している。「福島で多発していないとすれば、摘出手術が必要な子どもが全国で1万2千人以上存在する計算になるが、その子どもたちを救わなくてよいのか」と質問。鈴木は返答を言いよどみ、本音では手術を要する子どもが全国にそれほどいるとは思っていないことがありありとうかがえる場面もあり、多発否定には何の説得力もない。

「とにかく怒りしかない」 

 報告集会で原告代表の今野寿美雄さんは「山下が書いたこと、話したこと、本当にみんな“だました”だった。福島でもどこでも連帯してがんばっていくので、さらなる支援をお願いしたい」と訴え。

 原告の一人、佐藤美香さんは「山下証人の顔を見たら、腹立たしくて腹立たしくて。私の母も『ニコニコ発言』を信じていた。避難したくてもできない人、避難先で苦労している人がいることに思いを馳せ、改めてこの裁判に負けたくないと思った」と決意を語った。

 弁護団は、山下を利用し悪質な「安全キャンペーン」を垂れ流し続けた国や福島県の意図を解明し法廷で断罪するための最終準備書面を準備する。裁判は、次回7月28日午後1時30分からの弁論で結審。年内または年明けに予定される判決へ、いっそう支援を広げ世論を高めることが問われている。

子ども脱被ばく裁判とは

 福島原発は今も放射性物質を放出し続け、子どもたちの健やかな成長は脅かされている。福島県で子育てする原告たちは、居住する自治体に「子どもたちに被ばくの心配のない環境で教育を受ける権利が保障されていることの確認」を求めるとともに、事故後、県外に避難した人たちも含め、国と県に対し「事故後、子どもたちに被ばくを避ける措置を怠り、無用な被ばくをさせた責任」を追及するために2014年、福島地方裁判所に提訴した。



 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS