2020年03月27日 1618号

【未来への責任/(294)焦る歴史修正主義者】

 日本の「つくる会教科書」と瓜二つの運動を韓国で展開する、独裁者・李承晩(イスンマン)の信奉者である元ソウル大学教授の李栄薫(イヨンフン)。編著『反日種族主義−日韓危機の根源−』は韓国でベストセラーとなり日本語版も40万部を記録した。

 日本語版の前書きに「韓日自由市民の連帯は、北朝鮮に、さらに中国に、自由民主主義を普及させていく堡塁としてもその役割を果たすことでしょう」。また「韓国版の企画段階からそのような提案(日本語版の出版)をされてこられた産経新聞社の久保田るり子記者(編集委員)の役割が重要でした」とある。つまり、この本は日韓の右派人脈の連携のもとに出版された本である。

 その中で、一昨年10月の大法院判決に触れ、「裁判の原告は朝鮮人の舎監のもとで強制貯蓄させられ、…お金を預かった舎監がお金を返さなかった為に起こった民事事件であり、原告たちの嘘の可能性の高い主張を歴史を知らない法律家が…下した判決である」と、一切根拠も示さずに事実であるかのように記している。

 戦時下に強制労働の事実はなく賃金も正当に支払われ民族差別もなかったとの主張を全面展開する。著者の一人は、日本大使館前で毎週取り組まれている水曜集会に直接妨害行動を行っている人物である。強制動員被害者への支援や大法院判決を「ネバー・エンディング・ストーリー 賠償!賠償!賠償!」と題して揶揄(やゆ)し、朝鮮戦争の被害の賠償をなぜ朝鮮に要求しないのかとネトウヨ≠ホりの主張を展開する。

 韓国「ニューライト」の台頭と日本の歴史修正主義者の跋扈(ばっこ)は、日本と韓国だけの問題ではない。世界的に貧富の差が拡大し人々の不満が高まる中、アメリカでトランプ政権が生まれ欧州諸国でも移民排斥の右派政党が躍進し、差別排外主義が蔓延している背景には、その国に住む人々の拠って立つ「基盤」への自信の揺らぎを絡めとろうとする右派の共通の動きがある。私たちが未来に向けての選択を誤らないためにも、このような右派による「過去の捏造(ねつぞう)」を決して許してはならない。

 日本語版の帯には「歴史に嘘をつくことはできない」と書かれている。植民地主義克服の課題や自国の過去の負の歴史に向き合い、何より自ら受けた過去の人権侵害の回復をめざして必死で闘っている人々を貶(おとし)める彼に、この言葉をそっくりそのまま返したいと思う。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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