2020年04月10日 1620号

【未来への責任(295) 隠された真実 日韓請求権交渉】

 2月14日、情報公開で外務省から1960年7月22日北東アジア課作成の極秘文書『対韓経済技術協力に関する予算措置について』を全部開示させた。当該文書は、1992年8月14日放映のNHKスペシャル「調査報告 アジアからの訴え〜問われる日本の戦後処理〜」で初めて公になったが、存在は長らく不明のままであった。

 主な内容は「財産請求権問題は一種の棚上げにする方が適当である。その一方で日韓会談妥結の為に韓国に何らかの経済協力をする必要がある。我が国にとっても、過去の償いということではなしに韓国の将来の経済に寄与するという趣旨ならば、かかる経済的援助を行なう意義ありと認められる」というもの。「無償援助は韓国側請求権を全て放棄せしめるのでなければ国内で支持をえられない」との外務省高官意見も付け加えられている。

 NHKディレクターの新延明は「外務省では交渉の前から韓国側に請求権を放棄させ、謝罪の意味を含まない経済協力によって決着をはかる方針をすでに固めていた」「日本の工業製品などを送って韓国の経済発展に協力し、そのことで戦後処理を済ませようとした」(「条約締結にいたる過程」1993年5月『季刊 青丘』)と述べている。当時の外務省条約局長中川融は「大声じゃ言えないけれど、私は日本の金でなくて日本の品物、機械、日本人のサービス、役務で支払うということであれば、これは将来日本の経済発展にむしろプラスになると考えていた」とあけすけに語る。

 果たして、1965年の日韓請求権協定は、外務省のシナリオ通りに決着し「完全かつ最終的に解決された」(第2条1項)「いかなる主張もすることができない」(同条3項)とされてしまった。

 昨年7月29日に外務省は、1961年5月の第5次日韓全面会談予備会談一般請求権小委員会第13回会合の議事録を突然公表し「韓国人の請求権問題は協定により解決済みとする日本の主張を裏付ける証拠」(共同通信)と記者団に説明した。しかし公表された議事録はすでに公開され、韓国大法院判決でも検討されたものである。それどころか、この会議が日本側の考えたシナリオの下で行なわれていたことが、今回の機密文書開示で明らかになった。外務省は真実を隠し、「公表」によって意図的な世論誘導を図ろうとしていたのである。

 もつれた日韓関係をほぐすためには、真実を明らかにするところからはじめなければならない。日韓請求権協定で何が解決し、何が解決していないのか、検討すること抜きに、真の解決に至ることがないことは明らかだ。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会・山本直好)

 
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