2020年04月10日 1620号

【かんぽ不正を報じた番組に圧力/NHK経営委員会が主導/報道の自由を殺すアベ友人事】

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。この状況では世の話題はどうしても「コロナ一色」になってしまう。しかし、安倍政権下で進む悪事を見過ごしてはならない。かんぽ生保による不正販売の実態を報じた番組に、NHKの経営委員会が圧力をかけた一件もそのひとつだ。

調査報道つぶし

 かんぽ生命保険の不正販売に関するNHKの報道をめぐり、経営委員会の森下俊三委員長代行(現委員長)が日本郵政の意を汲んで続報つぶしに動いた詳細がわかってきた。当時の石原進委員長も番組批判に同調していた。

 経営委員会はNHKの最高意思決定機関。年間予算や事業計画などを議決し、会長の任免権を持つ。ただし「番組編集の自由」を守る観点から、委員が個別の番組に干渉することは禁じられている。つまり、経営委のトップ2が放送法違反の番組介入を行っていたことになる。

 事実経過を振り返ろう。2018年4月24日、NHKの『クローズアップ現代+』が「郵便局が保険を“押し売り”!?」というタイトルで、かんぽ生命保険の不正販売を報じた。番組は大きな反響を呼び、続編制作が決定。SNS動画で情報提供を呼びかけた。

 これに日本郵政グループが猛反発。NHKに抗議文を送り付けた。NHKは要求に従い動画を削除。続編制作も延期した。だが、郵政側は満足しなかった。鈴木康雄・日本郵政上級副社長(当時)が経営委員会の森下委員長代行と面会し、直接不満をぶつけたのである。鈴木は元総務省事務次官。今でも安倍官邸とのつながりが深いと言われる。

 面会の約一か月後、経営委員会は当時の上田良一会長を厳重注意した。2018年10月23日のことである。この日の会合では森下が口火を切り、「現場を取材していない。ネットを使う情報は極めて偏っている」などと番組批判を展開したという(3/24朝日)。

 石原委員長も「詐欺とか押し売りとか、非常に抵抗があります」と述べた。複数の委員から相次いだ批判に、上田会長は強く反発したというが、結局は全面屈服。会長名による事実上の謝罪文書を郵政側に提出した(同年11月6日)。

介入の張本人が昇格

 異例の事態はまだ続く。上田会長は今年1月に任期満了で退任した。続投が有力視されていたが、経営委員会が認めなかった。この人事について政府御用紙の読売新聞は「安倍首相と菅官房長官が影響力を行使したとみられる」(12/11)と解説する。「官邸には上田会長が政権批判の番組に十分対応できない(放送にストップをかけられない)との不満があった」(同)というのだ。

 経営委員会が新会長に選んだのは、前田晃伸・みずほフィナンシャルグループ元会長。安倍首相を囲む財界人が集う「四季の会」に参加していた経営者だ。自民党幹部は「官邸がコントロールしやすい人材をおいたのだろう」と、あけすけに語る(12/10毎日)。

 驚愕のアベ友人事は続く。経営委員会は昨年12月24日、互選で森下委員長代行を新委員長に選んだ。郵政側の代理人として報道つぶしを主導した人物が経営委のトップについたのだ。国会に参考人として出席した森下は「自主自律や番組編集の自由を損なう事実はない」と強弁した(3/5)。

国策宣伝装置に

 NHK関係者は「NHKのトップ人事は安倍人脈によるたらい回しだ」と証言する。NHKの経営委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命することになっているのだが、安倍政権はこの仕組みを利用してNHKをコントロールしようとしてきた。

 第一次政権の時は「四季の会」の中心メンバーである古森重隆・富士フィルムホールディングス会長を任命した(後に経営委員長になる)。第二次政権では、ネトウヨ作家の百田尚樹や「安倍応援団」を自認する長谷川三千子・埼玉大学名誉教授らを送り込んだ。

 このアベ友経営委がNHK会長に選んだのが籾井勝人である。「政府が右と言っているものを、われわれが左と言うわけにはいかない」と語るなど、在任中、数々の問題発言で物議を醸し続けた、あの籾井だ。

  *  *  *

 NHKの「アベちゃんねる」化はとどまるところを知らない。安倍首相の生中継会見を受け、政治部の岩田明子記者が翼賛解説をとうとうと語る光景もすっかり定番化した。

 新型コロナウイルス対策と称して、安倍首相が緊急事態宣言を行えば、「指定公共機関」のNHKは国策宣伝装置の役割を担うことになる。権力を監視するための報道の自由は失われるだろう。事態はそこまで来ているのである。 (M)

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