2020年04月10日 1620号

【読書室/イージス・アショアを追う/秋田魁新報取材班 本体1600円+税/調査報道で問う「兵器で未来は守れるか」】

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備候補地にされた秋田県。本書は、地元紙の秋田魁(さきがけ)新報が配備計画を追った2年間の取材記録である。

 地元選出の与党国会議員は計画にそろって賛成。その姿に「安倍一強」へのおもねりを感じた魁新報社社長は自ら執筆した記事を1面に掲載し、「兵器で未来は守れるか」「配備する明確な理由、必要性が見えない」と訴えた。

 基地問題に不慣れの記者たちは、手探りで取材を始める。もう一つの候補地の山口県萩市やXバンドレーダー配備地の青森県つがる市、京都府京丹後市を取材。米軍のイージス・アショアが配備されているルーマニアや配備予定のポーランドへも足を運んだ。取材を進めるにつれ、市街地と隣接する秋田市新屋(あらや)が候補地とされることに疑問が深まる。

 「盾は何を守るのか」と題した長期連載の第1回の見出しは「それ、アメリカです」。ミサイル迎撃はアメリカ本土に向かう弾道ミサイルを標的するものであることを読者に訴えた。

 事態を動かしたのは2019年6月5日付のスクープだった。男鹿半島の別の候補地を〈山で遮られ「不適」〉としたのは明らかなデータの誤りで、「新屋ありき」の防衛省の意図が明らかだと報じた。この報道により、地元住民はもちろん、知事、市長も態度を硬化させる。その後の参議院選挙では「配備反対」を明確にした野党統一候補が勝利した。

 地元紙の約2年にわたる調査報道が、住民を無視した兵器配備強行に「待った」をかけた。権力をチェックするメディア本来の役割がここにある。 (N)
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